細胞小器官の量的調節機構は、細胞が自律的に機能するために必須の機構であり、その分子機構の解明は細胞生物学の重要な研究課題である。ゴルジ体ストレス応答はゴルジ体の量的調節機構であり、研究代表者が世界に先駆けて切り拓いた研究分野である。本研究課題の開始前までに、ヒトのゴルジ体ストレス応答の分子機構として、4つの応答経路(TFE3経路とプロテオグリカン経路、ムチン経路、コレステロール系)を発見し、本研究課題ではこれら4経路の制御因子を同定することによってその分子機構を明らかにしようとしている。コレステロール経路に関しては、前年度はPITPNB遺伝子のノックアウト細胞でコレステロール経路の活性化が起こらなくなることを見出したが、今年度はPI4KIIIB遺伝子とCDIPT遺伝子のノックアウト細胞でもコレステロール経路の活性化が起こらなくなることを見出した。これら3つの酵素はトランスゴルジでのPI4P必要であることから、ゴルジ体ストレスによってトランスゴルジのPI4Pが増えることによってコレステロール経路が活性化されているのではないかと推論した。ムチン経路に関しては、前年度に行った酵母one hybridスクリーニングの結果、転写因子の候補としてRelAなどを見出していたが、今年度は細胞でRelAを過剰発現させたところ、ムチン経路の活性化が起こることがわかった。現在、RelA遺伝子のノックアウト細胞でムチン経路の活性化が抑制されるかどうか調べている。TFE3経路に関しては、網羅的siRNAスクリーニングを行った結果、TFE3経路の制御因子の候補を複数見出した。現在、これらの候補遺伝子のノックアウト細胞を作製し、TFE3経路の活性化が抑制されるかどうか調べている。プロテオグリカン経路の制御因子に関しては、転写因子KLF2とKLF4の転写誘導を制御するエンハンサー配列を同定した。
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