研究課題/領域番号 |
19K06647
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
武田 鋼二郎 甲南大学, 理工学部, 准教授 (90426578)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリリン酸 / リン酸 / オートファジー / タンパク質分解 / 細胞寿命 |
研究実績の概要 |
ポリリン酸(PolyP)は、数個から数百の無機リン酸が重合した高分子であり、全ての生物が有すると言われている。PolyPにはリン酸貯蔵体としての役割がある一方、血液凝固、エネルギー代謝やタンパク質の安定性への関与、PolyP化というタンパク質の翻訳後修飾の発見なども報告されている。PolyPは単なる貯蔵体を超えた生体分子ということになるが、まだ未発見の機能や制御系の存在が予想される。PolyPは既に社会利用されていることから、その細胞に及ぼす影響や新しい生理活性、制御機構の理解は、基礎・応用両面で重要である。申請者はPolyPを過剰蓄積する分裂酵母変異株Δpqr1を発見し、この変異株では栄養飢餓時にオートファジー依存的タンパク質分解に異常をきたし細胞寿命が短縮することを見出した。本研究では、この発見と分裂酵母変異株を活用し、「真核細胞におけるPolyPの新しい生理機能と進化的に保存された制御系を解明する」ことを目的とする。本研究で追求したい中心的な問いかけは、(A) PolyPの新規生理機能、(B) PolyPに関わる遺伝子群の網羅的同定、(C) PolyP量の変化や異常に対する細胞応答の全体像の理解、の3点である。2020年度は、(A)に関しては、細胞寿命、オートファジー依存的タンパク質分解とPolyPとの関わりに関する研究が進展した。細胞内PolyP量を適切なレベルにとどめることが液胞(動物細胞のリソソームに類似しており、細胞内の分解反応に関わる)の機能の維持、ひいては細胞の飢餓対応機構であるオートファジーの完了に必要であることが示され、学術論文としてまとめ、出版準備中である。(B) (C)については、市販の遺伝子破壊株ライブラリーを利用した変異体スクリーニング、PolyP量撹乱時のトランスクリプトーム変化の解析を、それぞれ計画しているが、技術的な問題点があり進捗が遅れているのが現状である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究提案の端緒となった、ポリリン酸とオートファジー、細胞寿命維持に関する研究は順調に進展している。2020年度後半は、これらの結果を学術論文にまとめる作業と論文修正のための実験に注力した。現在(2021年5月)、論文の最終的な受理に向け努力している段階である。PolyP量を調節する遺伝子については、遺伝子破壊株ライブラリーを活用し、網羅的にPolyP量を測定するという直截な方法論を検討したが、まだ技術的にめどがたっていない。PolyP撹乱時のトランスクリプトーム解析についても同様で、いずれも2021年度の進展を図りたい。本研究提案の3つの柱のうち、PolyPの新規生理機能に関する知見を深めるという点においては、学術論文にまとめる段階に至ったので順調に視点進捗しているが、他の2点については公表できる結果に至っていない。そのため、総合的な評価は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
ポリリン酸とオートファジー、細胞寿命維持に関する研究(A)については、2021年度中の論文出版を目指す。PolyP合成酵素を人為的にON/OFFできる分裂酵母株を作成することに成功しているので、この株を活用して、細胞内PolyPの必須機能にさらに迫る研究を2021年度中に開始する計画である。PolyPに関わる遺伝子群の網羅的同定(B)については、分裂酵母遺伝子破壊株ライブラリを用いて網羅的にPolyP量を測定することは相当に困難であることが判明した。発想を転換し、細胞内PolyPを蛍光染色しフローサイトメーターを利用したスクリーニングを検討したい。PolyP量の変化や異常に対する細胞応答の全体像の理解(C)については、PolyP合成酵素を人為的にON/OFFできる分裂酵母株も活用したトランスクリプトーム解析を着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はトランスクリプトーム解析に至らなかったため、消耗品費が計画より少なかった。2021年度は新規感染症対応の面でも2020年度よりは落ち着いて研究を進めることができると期待される。フローサイトメーターを用いた変異体スクリーニングの立ち上げや,トランスクリプトーム解析着手などに消耗品費を使用する予定である。
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