研究課題/領域番号 |
19K06649
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
大坪 瑶子 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 特任助教 (80580266)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | TORキナーゼ / 栄養応答 / 有性生殖開始 / tRNA / 細胞内シグナル伝達 / 分裂酵母 |
研究実績の概要 |
分裂酵母は栄養が枯渇すると、増殖を停止して有性生殖を行う。申請者等のこれまでの解析から、栄養飢餓を感知し、有性生殖過程へ移行する制御機構に、TORキナーゼを中心とするシグナル伝達経路が大きく関与していることが示されている。これまでに、tRNAの前駆体がTORキナーゼ複合体1(TORC1)の活性調節に関わるという結果が得られている。 2020年度は、tRNA前駆体に結合し、TORC1の活性制御に関わるタンパク質を単離することを目的として、RNA結合タンパク質U1Aの結合配列を挿入したtRNA前駆体と、YFPを融合したU1Aを共発現できるような株を作製した。この株を使ってRNA免疫沈降を行ったところ、tRNA前駆体自身の結合は確認できたが、結合タンパク質は充分には単離できなかった。 分裂酵母のオンラインデータベースから、既知のtRNAに関連する全因子を抽出した。その中から、TORキナーゼの阻害剤に対して感受性を示す変異株の原因遺伝子として報告されている因子や、TORキナーゼ阻害剤添加により遺伝子発現が変化する因子を探索した。その結果、tRNA前駆体のプロセシングに関わるSla1が、tRNAとTOR両者に関連する因子として単離された。TORC1の変異株とsla1破壊株の二重変異株を作製したところ、栄養が豊富な培地上で、TORC1の変異株よりも高い割合で、接合した細胞が観察された。また、TORC1の変異株でSla1を高発現させると、接合亢進の表現型が部分的に抑圧された。 また、栄養応答に異常を示す変異株の原因遺伝子の一つとして単離された減数分裂の開始を抑圧するキナーゼPat1が、TORC1によって直接リン酸化されるかをin vitro kinase assayによって検討した。その結果、Pat1はTORC1によって直接はリン酸化されないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、新型コロナの影響で実験の中断期間があり、当初の予定より遅れが出たが、tRNAを介したTORC1の活性調節経路に、tRNA前駆体のプロセシングに関わるSla1が関わっている可能性を新たに見出すことができた。また、栄養応答に異常を示す変異体の原因遺伝子として単離されたPat1に関しての解析も進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、tRNA前駆体がどのようにTORC1活性を制御しているのかを明らかにするために、tRNA前駆体に結合するタンパク質を単離するための系の構築を試みる。また、2020年度に、tRNA前駆体がTORC1の活性を調節する経路に、Sla1が関わっている可能性を見出したので、Sla1に注目して詳細な解析を進める。さらに、Pat1がTORC1の直接の標的ではなかったことから、TORC1とPat1の間をつなぐ因子を探索する。また、その他の栄養応答に異常を示す変異体に関しても解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で実験の中断期間があり、試薬等の消耗品の使用が当初の予定より減少した。また、学会や打合せはオンラインで行ったため、旅費が発生しなかった。本年度繰り越し分は、次年度の解析で必要となる消耗品や受託解析で使用する予定である。
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