研究実績の概要 |
上皮のバリア機能には、上皮細胞の隙間をシールする細胞間接着装置(細胞間隙バリア)の存在が不可欠である。ショウジョウバエでは、セプテートジャンクション(以下SJ)が細胞間隙バリアとして機能している。私は、ショウジョウバエ腸管のSJであるスムースSJ (sSJ)に注目し、その分子構築、形成機構、生理機能と共に、腸管恒常性維持における役割について解析を進めている。私たちは、sSJの構成分子として、この研究課題以前に3種類(Ssk, Mesh, Tsp2A)、そして2020年度には4種目(Hoka)を同定し、これらを1つでも欠失させると、幼虫期に腸管の上皮バリアが機能低下することを明らかにした。さらに、この実験系を成虫に適用し、腸管の上皮バリア機能の低下がもたらす表現型を解析した。2020年度までに、SJ分子が欠失した腸管では、腸管バリアの機能低下と寿命の低下が起こることを明らかにし、興味深いことにその腸管では幹細胞の増殖亢進と上皮細胞の過剰増加による腸肥大が起こることを見出した。従って、ショウジョウバエ成虫の腸管において、上皮バリア機能が幹細胞の増殖制御を介して腸管恒常性の維持に寄与することが明らかになった。2021年は、sSJ分子欠失による幹細胞の増殖亢進のメカニズムについて解析を進めた。その結果、1)上皮細胞におけるatypical Protein Kinase C (aPKC)とHippo経路の転写共役因子Yorkieの活性化が関与すること、2) 上皮細胞の損傷感知に関わることが知られているJNK経路は関与していないこと、3) サイトカインであるUpd2/3の発現が関与すること、4) 幹細胞ではEGFR-Ras-MAP kinase経路とJak-STAT経路の活性化が関わること、を明らかにした。今後、sSJ分子欠失による幹細胞の増殖亢進メカニズムをさらに追求していきたい。
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