研究課題/領域番号 |
19K06654
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高稲 正勝 群馬大学, 未来先端研究機構, 助教 (20573215)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ATP / タンパク質凝集 / AMPK / エネルギー代謝 / 神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
細胞内エネルギー代謝を理解するためにはATP濃度制御機構の解明が不可欠であるが、そもそも真核細胞内のATP動態の詳細は未だ不明であった。申請者はATPセンサーを使用して一細胞レベルでATP濃度を観測し、ATP濃度が常に高濃度に保たれているのを発見した(ATP恒常性)。またAMPキナーゼやアデニレートキナーゼの変異株細胞ではATP恒常性の破綻によりATP濃度が大きく変動し、細胞毒性を持つ変性タンパク質凝集体が蓄積していた。そこで本研究では細胞内高濃度ATPによって異常なタンパク質凝集体の蓄積が抑制される仕組みを解析する。令和元年度に実施した研究の成果は以下の通りである: (1)αシヌクレインの毒性の解析 パーキンソン病の原因タンパク質であるαシヌクレインを野生型およびATP濃度低下変異酵母株に発現させ、酵母の生育速度や生存率を計測することで細胞毒性を評価した。細胞内ATP濃度が低下している株では野生株と比較してシヌクレインによる細胞毒性が増大していた。したがって細胞内ATP濃度低下がαシヌクレインの毒性を増悪することが示唆された。 (2)細胞内活性酸素の計測 ATP低下変異株の細胞内で観察されるタンパク質凝集体の蓄積は、活性酸素によるものかどうかを検証するため、活性酸素を特異的に染色する蛍光試薬を使用して細胞内の活性酸素量を計測した。野生株とATP低下株で細胞内の活性酸素量にほとんど差は無かったので、活性酸素はタンパク質凝集を促進する原因ではないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題の目的は、申請者が発見した真核細胞における細胞内ATP濃度維持機構の解明と、その破綻が異常なタンパク質の凝集を誘導する仕組みを明らかにすることである。 現在までに細胞内ATP濃度が低下したり、不安定になる変異株(ATP変異株)を複数株同定している。またそのようなATP変異株では異常なタンパク質凝集体が蓄積しやすいことも見出している。今年度の実験結果からATP変異株では細胞内活性酸素が増加していないことが明らかになった。この結果はATP変異株では細胞内ATP濃度低下そのものがタンパク質の凝集を直接誘導することを示唆している。またATP変異株ではαシヌクレインの毒性が増大することから、酵母の内在性タンパク質のみならず、ヒトのタンパク質もATP濃度低下により凝集し病原性を発揮する可能性が示唆された。 これらの結果は本研究課題で解明を目指す、高濃度ATPによるタンパク質の異常凝集体蓄積抑制作用を支持し、またその普遍性を示唆している。よって現在までに得られた研究成果は本研究課題の研究目的に則して、概ね順調な達成度であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに細胞内ATP濃度低下により酵母の内在性タンパク質およびヒトの病気の原因となるようなタンパク質が凝集し、細胞毒性を誘起することを示唆する結果が得られている。今後はこの仮説をより詳細に検証することで、高濃度ATPが異常タンパク質凝集の蓄積を抑制する仕組みを明らかにする。今年度は以下の実験を予定している:(1)αシヌクレイン凝集体の観察;(2)質量分析による酵母細胞内ヌクレオチド量の定量;(3)細胞内ATP濃度を人為的に増大させる方法の考案。 2020年初頭はパートタイム技術員の雇用を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大防止策のため、研究活動を縮小せざるを得なくなり雇用を見送った。今後一年間はこの状況が続くことが予想されるため、技術員雇用のための予算は質量分析の受託費用やルーティン用途用顕微鏡の購入に充てる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はタイテック社製の恒温振とう培養器BR-43FLを購入する予定だったが、申請者が所属する研究機関の共同利用機器として同機が利用可能になったため、その分の研究費を次年度に繰り越した。
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