申請者はATPセンサーを使用して一細胞レベルでATP濃度を観測し、ATP濃度が常に高濃度に保たれているのを発見した(ATP恒常性)。またAMPキナーゼやアデニレートキナーゼの変異型酵母細胞ではATP恒常性の破綻によりATP濃度が大きく変動し、細胞毒性を持つ変性タンパク質凝集体が蓄積していた。そこで本研究では細胞内高濃度ATPによって異常なタンパク質凝集体の蓄積が抑制される仕組みを解析する。令和3年度に実施した研究の成果は以下の通りである: (1)1細胞レベルにおけるATP濃度とタンパク質凝集体の同時観察 数種類のタンパク質凝集体マーカーを比較検討したところ、分子シャペロンHsp104と赤色蛍光タンパク質RedSTAR2との融合タンパク質(Hsp104-RS2)が25℃におけるATPとの同時観察に最適なマーカーであることがわかった。ATPセンサーとHsp104-RS2を同時に発現する酵母株を作製して観察すると、野生株ではATP濃度が数時間に渡って一定であり、Hsp104-RS2の蛍光強度(=細胞内の蓄積量)は単調かつ線形に緩やかに増大していた。ATP変異株ではATP濃度が一定に保たれている間は野生株と同様にHsp104-RS2の量は線形にゆっくりと増大したが、ATPが一過的に急激に低下した後ではHsp104-RS2量が急速に増大する様子が観察された。これらの結果から一過的なATP濃度低下が細胞内タンパク質の異常な凝集体形成の原因になり得ることが明らかになった。 本研究全体の成果としては(i) ATP恒常性維持に関与する遺伝子を初めて同定した、(ii) 変異株内におけるATPの急激な濃度変動を初めて可視化した、(iii) 一過的なATP濃度低下でも異常なタンパク質凝集体生成の原因になることを直接的に示した、等が挙げられる。 また本研究成果をまとめた論文を国際誌eLifeにて発表した。
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