研究課題/領域番号 |
19K06655
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 健 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00303602)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小胞輸送 / リン酸化 / COPII / 小胞体 |
研究実績の概要 |
真核細胞内では小胞輸送を介して盛んに物質や情報のやりとりが行われている。この小胞輸送はオルガネラ間での脂質成分のやりとりを伴うため、物質輸送だけでなくオルガネラの形成、形態維持とも密接に関わる反応であることが示唆されている。しかし、小胞輸送による膜の流れを制御、調節するしくみについての知見は驚くほど少ない。 本研究では、出芽酵母の小胞体-ゴルジ体間の小胞輸送をモデル系として、この反応に関わるCOPII因子群、および輸送小胞の形成が行われる小胞体出口部位の形成で中心的な役割を担うSec16が受けるリン酸化・脱リン酸化に着目し、小胞体-ゴルジ体間の小胞輸送がリン酸化・脱リン酸化により制御されるメカニズムと、それに関わるオルガネラ形成についての徹底的な理解を目指す。 令和2年度は、前年度までに同定したCOPIIコートのサブユニットの一つについて、そのN末端領域がPP2Aホスファターゼにより脱リン酸化を受ける現象について、実際に脱リン酸化を受ける具体的な残基の同定を行った。その結果、COPIIコートサブユニットの21番目のリン酸化チロシンがPP2Aホスファターゼにより脱リン酸化を受けることを同定した。 また、Sec16について、前年度までに作成したSec16中のリン酸化部位108カ所のすべてをアラニン残基に置換した変異体が、小胞体出口部位、および小胞輸送活性に顕著な影響を与えなかったことを踏まえて、本年度はリン酸化部位108カ所のすべてを擬似リン酸化残基に置換したSec16変異体を作成した。その結果、野生型Sec16の代わりにこの変異体を発現させた酵母株は生育することができなかった。この結果から、Sec16のリン酸化自体は小胞体-ゴルジ体間の小胞輸送に必須ではないものの、リン酸化されたSec16の脱リン酸化が行われないと、酵母細胞に重篤な障害をもたらすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において設定した、今年度に達成すべき項目について、ほぼすべてについて着手し、目的の結果を得ることができ、次年度の研究につながる成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに同定した、PP2Aホスファターゼが脱リン酸化するT21残基について、これを非リン酸化残基、あるいは擬似リン酸化残基に置換したCOPIIコートサブユニットを作成し、この部位のリン酸化、脱リン酸化が小胞輸送に与える影響について解析を進める。また、Sec16についても、どの部位の脱リン酸化が小胞体出口部位の形成に必要なのかについて解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) リン酸化残基の同定に予想外に多くの時間を費やすことになり、より多くの消耗品を必要とする足場タンパク質Sec16の解析に費やした時間が相対的に少なくなったため。 (使用計画) 昨年度に引き続き、小胞体-ゴルジ体間の小胞輸送に関わる因子群がリン酸化・脱リン酸化により制御されるメカニズムの解析において、分子生物学試薬、微生物培養試薬、生化学試薬、プラスチック製品などの消耗品の購入を行う。また、人件費、成果発表のための旅費、および研究成果の論文発表のための費用について計上する。
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