研究課題/領域番号 |
19K06660
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
淺川 東彦 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (70399533)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核膜 / 核膜孔 / クロマチン / 染色体 / 分裂酵母 |
研究実績の概要 |
真核細胞では、核膜周辺にはヘテロクロマチン領域が集中し、その一方で核膜孔周辺ではユークロマチンが見られることが知られており、クロマチン機能が核膜蛋白質によって調節されることが示唆されている。しかし、核膜周辺領域でクロマチンがどのように調節されるのかその詳細は明らかにされていない。本研究では核膜構成因子のうち核膜孔複合体(NPC)に注目し、クロマチン構造とNPCタンパク質の機能的構造的相互作用の分子機構を明らかにすることを目的としている。2019年度の実績は次の通りである。 (1)免疫電子顕微鏡法によるNPCタンパク質の局在同定:30種類の核膜孔複合体蛋白質それぞれの局在を免疫電子顕微鏡法によって決定し、NPCの基盤構造の一つとして知られているNup107-160サブ複合体が、分裂酵母では2つに分離しており、NPCの細胞質側と核質側に分かれて局在化する極めて特徴的な構造をとることを報告した。 (2)NPC遺伝子の多重欠損による合成致死性の検討:免疫電子顕微鏡法による局在解析の結果を元に、核膜孔複合体の中でも核内側に特異的に局在化する核膜孔複合体蛋白質について遺伝子破壊株を作成し、二重破壊や三重破壊によって致死または生育遅延が見られる組み合わせを見出した。 (3)NPCタンパク質Nup184とDNA結合タンパク質Cdb4の合成致死性の発見:生育に非必須のNPCタンパク質Nup184とDNA結合タンパク質Cdb4が二重欠損すると致死性を示すことを発見し、報告した。Cdb4の細胞内での機能は今までほとんど知られていないが、この結果を手掛かりにNup184とCdb4の機能が明らかになることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NPCの中で核内側に特異的に局在化するNPCタンパク質のうち、5種類はそれぞれ生育に不要であるが、それらの相互の関係は今までわかっていなかった。2019年度はこれらのNPCタンパク質の遺伝子について二重破壊株・三重破壊株を作成し、遺伝子の欠損によって生育が阻害される組み合わせを複数見出した。このことはNPCの核内側の因子が相互作用して必須の機能を担っていることを意味している。 また、DNA結合タンパク質Cdb4は湾曲DNAに結合するという活性以外に顕著な特徴をもたず、細胞内での機能は未知であったが、合成致死変異のスクリーニングによって、NPCタンパク質をコードする遺伝子の1つであるnup184遺伝子を同定した。今年度発表した免疫電子顕微鏡解析の結果から、Nup184タンパク質は核内側に局在化する因子ではないが、NPCタンパク質とDNA結合タンパク質Cdb4との遺伝的相互作用は、本研究課題の目的であるNPCとクロマチンの相互作用の実態解明における手掛かりとなる重要な成果である。 これらのことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
生育遅延が見られた二重遺伝子破壊・三重遺伝子破壊株に関して、ミニ染色体の脱落頻度を調べるほか、核構造や遺伝子機能にかかわるマーカータンパク質の挙動をイメージングや生化学的手法によって調べる。これによりどのような生育阻害となる原因を明らかにする。NPCタンパク質間の相互作用を生化学的に調べる。Nup184とCdb4の関係については、相互作用の実態について解明を進めるほか、関連因子の検索をさらに進めることにより、これらの相互作用が細胞内でどのように重要なのか、具体的な機能・役割を明らかにする。これらの研究によって、NPCとクロマチンの相互作用がどのように細胞核の構造の構築や維持に関与するのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:必要に応じて研究費を執行したために当初の見込み額と実際の執行額が異なった。 使用計画:研究計画には変更はなく当初予定通りの計画を進める。繰越金は次年度の物品費に追加する。旅費、人件費、その他の費目については変更はない。
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