研究課題/領域番号 |
19K06670
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小川 泰 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70624956)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核細胞質間輸送 / 熱ストレス / 核画分分画法 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む多くの生物の細胞は、非常に狭い温度領域において、恒常性や増殖能を維持している。申請者は、細胞の機能維持に必須である核-細胞質間輸送システムが温度上昇に対し、段階的に調整されることを発見し、その中で輸送因子Importin αファミリーの熱変性が大きな役割を果たすことを見出した。ヒトImportin αファミリーは7種類存在し、その内の5種類が熱に対し強い感受性を持ち、Tm値(Melting temperature) は45℃以下だった。Importin αは、細胞質でImportin βと2者複合体を形成し、輸送基質を認識し核内へ輸送する。より細胞内と近い状況での熱感受性を調べるため、Importin βと複合体を形成した状態でのTmを測定すると、さらに5℃以上Tm値が低下した。このことは、37℃の生理条件下でも、機能を維持できないため、細胞内には何らかの安定化機構が存在すると思われる。熱ストレスと他のタンパク質毒性環境に対する調節機構に関連性がある可能性が示唆された。実際に、Importin αファミリーの内、癌由来培養細胞で最も高い発現量のImportin α1の大腸菌由来リコンビナントタンパク質は、37℃において2時間で70%以上が失活するのに対し、HeLa細胞内での半減期は12時間以上であった。細胞内の安定化因子を同定するために、細胞質においてImportin α1に結合するタンパク質を質量分析により網羅的に同定した。その結果、Importin βに次いで、特異的に結合する因子をいくつか発見したが、Importin αを安定化させる機能を見出すことが出来なかった。次に、タンパク質安定化に寄与する低分子化合物群に着目した。その結果、37℃におけるImportin α1の失活を抑制する化合物を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
37℃において2時間で70%以上が失活するImportin α1のリコンビナントタンパク質は、HeLa細胞由来の細胞質画分を加えることにより、ほぼ失活を防ぐことが出来ることを見出した。そのため、Importin αの安定化に寄与する未知のタンパク質が存在すると想定し研究を進めたが、質量分析による網羅的解析を行っても、そのような機能を果たすタンパク質を見出すことが出来なかった。同定された候補タンパク質を個別に機能解析したため時間がかかり、研究計画に少し遅れが生じた。次に、細胞質画分に含まれる低分子化合物群に着目した。その結果、37℃におけるImportin α1の失活を抑制する細胞内の化合物を見出すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今回見出したImportin αを安定化させる化合物は、癌細胞では細胞内濃度が非常に高く、逆に老化細胞では濃度が低いことが報告されている。このため、癌化によってImportin αの安定性に変化が生じ、核内輸送効率が変化し、最終的に遺伝子発現等の核内機能に変化をもたらしている可能性がある。研究期間延長した1年間で、今回見出した化合物とImportin αの関係性を明らかにし、新規ストレス応答機構を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に行ったプロテオミクス解析の結果次第で必要試薬が異なるため、年度をまたぎ、解析結果を待ってからの予算執行となったため。
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