ヒトを含む多くの生物の細胞は、非常に狭い温度領域において、恒常性や増殖能を維持している。熱ストレスなど、その温度領域を外れると、細胞は様々な分子応答を介して、このタンパク質毒性環境に対応する。その一つとして、申請者は核-細胞質間輸送の変化を見出した。特に、Importin αファミリーの温度感受性が大きく関与することを見出している。37℃でも変性する熱感受性Importin αサブタイプが、細胞内でどのように保護されているのかを探索してきた。実際にシクロヘキシミドチェイス法により、Importin αのタンパク質寿命を測定すると、それほど短寿命なタンパク質ではないことが分かった。Importin αがどのように熱安定性を維持しているのかを明らかにするため、昨年度はImportin α1に特異的に結合するタンパク質を網羅的に同定した。しかし、強力に結合した上位候補タンパク質の中で、Importin α1に対して安定化作用を示す因子を決定することはできなかった。次に、Importin α1を安定化する低分子化合物を見出した。一方で、低分子画分を除去した場合でも細胞抽出液にImportin αの安定化効果がみられたため、やはりタンパク質群にも安定化作用を持つものが存在することが示唆された。次に、同定された100以上のImportin α1結合タンパク質群にどのような特徴があるかを調べた。その結果、これらの多くが持つ共通の特徴により、Importin α1が安定化させられることが分かった。これらの結果は、核-細胞質間を行き来するシャトルタンパク質の働きにより、熱に対して不安定なImportin αの機能が維持されることが示唆された。
|