研究課題/領域番号 |
19K06671
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
猪子 誠人 愛知医科大学, 医学部, 講師 (30393127)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮分化 / 表層アクチン / カルシウム / ジアシルグリセロール / TRPC |
研究実績の概要 |
近年、Rho-kinase阻害剤やBMP-SMAD阻害剤が上皮分化を阻害することがわかり、これまで難しかった正常上皮幹細胞の培養増殖が可能になりつつある(Mou Hら,Cell Stem Cell. 2016;19:217-231他)。これを上皮分化過程の研究に応用するため、報告者は検体に由来する正常乳腺あるいは正常前立腺上皮幹細胞を分化させる2つの方法を培養皿上で確立した。その正当性は、Δp63α、Axin2、Claudin4などの未分化・分化マーカーで確認した。このうち今年度は、阻害剤の除去による単層上皮への分化過程を主に分子形態学的に解析した。 今年度、報告者は上皮分化が表層アクチンによる一過性の細胞収縮を必要とすることを発見した。このことは、アクチン重合剤あるいはその阻害剤によって確認した。同時に、この上皮分化はカルシウムイオンとジアシルグリセロールを必要とすることが、これらの添加実験によって明らかになった。 このような細胞表層の侵害刺激、細胞内カルシウム流入、そしてジアシルグリセロール応答性を結び付けるものは受容体活性化カルシウムチャネルとして最近注目を集める「TRPCファミリー」に含まれる。そのうち上皮特異的な発現をPublic data (Human Protein Atlas)で示すTRPC6に着目し解析を進めた。その結果、TRPC6ノックダウン細胞では上皮分化マーカーであるClaudin4の減少を認めた。逆にTRPC6の強制発現はClaudin4の蛋白レベルでの上昇を認めた。 以上のことから、これまで謎の多かった上皮分化には「表層アクチンの収縮とカルシウムイオンの流入が必要」で、その一部はTRPC6で説明できると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常上皮分化解析について、遺伝子発現解析やデータベースサーチを行い、カギとなる分子基盤を見つけると共に、今後の発展的な分子課題、医学研究課題についても抽出できているため。
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今後の研究の推進方策 |
本結果は速やかにまとめると共に、今後は上流のGPCRや下流のシグナル・転写因子について分子解析を深める。また、今後は生体内にみられるような分化組織の階層構造やその異常である癌についても、検体を用いた解析で掘り下げていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
採択当初はなかった臨床研究の計画が入り、結果的に未使用額が生じた。両者は基礎と臨床で協調的な対を成す課題であるが、今後研究全体のバランスを考え、適切に使用する計画である。
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