近年、エネルギー代謝経路が細胞のエネルギー制御に留まらず、種々のシグナル経路、エピジェネティクス因子の機能・活性を制御することで複雑な生命現象を制御することが明らかになった。しかし、多くの代謝研究は癌等の病理学の観点から進められており、胚発生時における代謝の動態、機能はほとんど明らかになっていない。我々は過去の研究結果から、「エネルギー代謝経路が勾配を形成し「モルフォジェン」同様に組織パターン形成因子として働く」という仮説を考えた。本研究では、エネルギー代謝経路を個体レベルで可視化・定量できるシステムを構築し、その役割を解析することでこの仮説を検証し、発生・栄養代謝研究の新概念構築を目指している。前年度までに、エネルギー代謝経路の代謝物であるATP、NAD+、pHを可視化するレポーターラインの作成を完了し、ゼブラフィッシュ胚における代謝パターンを調べた結果、前後軸に沿った勾配勾配パターンを発見した。さらに、エネルギー代謝経路を制御すると考えられるオートファジー経路をMOによって抑制したゼブラフィッシュ胚を作成した結果、胚の前後極性が異常になることを発見した。つまり、エネルギー代謝勾配はゼブラフィッシュ胚の前後パターンを制御する主要因子であることが分かった。さらに寿命が短く老化研究に最適なターコイズキリフィツシュにおけるATP、pH、オートファジーを可視化するレポーターラインの作成も完了した。本年度は、作成したレポーターラインを用い、成体組織を透明化処理することで代謝パターンの詳細解析を行なった結果、成体の肝臓や腸の組織でWntシグナルなどと並行した代謝勾配パターンを示すことを明らかにした。つまり、エネルギー代謝勾配による組織パターン形成機構が、初期胚だけでなく他の組織、器官形成過程においても普遍的に働くことが分かった。
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