胚性幹細胞(ES細胞)は、胚胎に由来するすべての細胞に分化する能力、多分化能を有する。また、安定的に核型を維持してほぼ無限に培養可能である。通常の培養条件下においてES細胞は均一な細胞集団ではなく、異なる性質を有する細胞が含まれていることがわかっている。特に2細胞期胚に特異的な転写因子Zscan4を発現する細胞(2細胞期胚様細胞)は生体における分化細胞寄与能や正常核型を維持する上で重要な役割を果たしていると言われている。しかし、ES細胞のうちのごく少数の細胞集団がどのような機構でZscan4陽性状態へと移行するのかはほとんどわかっていなかった。我々は、スクリーニングによって核小体タンパクPum3がこの移行に機能していることを見出した。Pum3を欠損したES細胞では Zscan4陽性細胞が顕著に増加していた。さらに、二重欠損ES細胞の解析などを通じて、2細胞期胚様細胞への移行にはp53の活性化が重要な働きを満たしていることを見出した。しかし、p53の活性化によってどのように2細胞期胚様細胞へと移行するのかが未解明であった。そこで我々はp53の活性化によって引き起こされる細胞周期の異常に注目した。阻害剤を用いた細胞周期の一時的な停止は2細胞期胚様細胞への移行を誘導した。この移行はp53を欠損したES細胞でも認められた。このことから、Pum3-KOマウスES細胞では(1)Pum3欠損(2)リボソームストレス(3)p53活性化(4)細胞周期異常、という流れによって起こっていることが示唆された。本研究結果は2細胞期胚様細胞移行の直接の分子機構を明らかにする可能性がある。
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