研究課題/領域番号 |
19K06677
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中島 圭介 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (60260311)
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研究分担者 |
田澤 一朗 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (10304388)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | olfm4 / scppa2 / thyroid hormone / receptor / metamorphosis / tail regression |
研究実績の概要 |
多くの生命は発生過程において変態を行い、異なる環境に適応し、繁栄を模索している。無尾両生類は変態によって水中から陸上へと生活様式を換える際に、数日で体長の2倍以上の長さがあった尾を消失する。変態は甲状腺ホルモンによって引き起こされ、その受容体にはαとβの二つがある。研究代表者は受容体βをノックアウト(KO)した場合のみ、尾の退縮が抑制され、この際、脊索の崩壊が顕著に抑制されていることを明らかとした(Nakajima 2018)。続いて、退縮中の脊索ではmmp9-th, scppa2, mmp13, olfm4の発現量が劇的(62-1691倍)に増加することをRNA-Seqにより明らかとした(Nakajima 2019, 2020)。mmpは細胞外基質分解酵素なので、退縮中の脊索において高発現することは理解しやすいが、scppa2は骨や歯が形成される時に働くscppファミリーの一員であり、尾の退縮における役割は不明である。また、olfm4は小腸の幹細胞のマーカーとしてよく知られ、この他には腫瘍の成長促進因子・抗アポトーシス因子・細胞接着を促進する細胞外基質糖タンパク質であることが報告されているが、脊索の退縮にどのように関わっているかは不明である。これら二つの遺伝子の変態における役割を明らかとするために、現在scppa2, olfm4ノックアウト(KO)動物の表現型の解析を行なっている。さらに TRβKO動物の脊索における遺伝子発現を解析したところ、mmp9-th, scppa2, mmp13 の発現量は野生型と変わらなかったが、 olfm4の発現量のみが減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下の5つの研究課題を解明することを目的とした。
[1] 脊索ではTRβの発現量の方がTRαよりも多いのか? [2] 脊索でTRβの発現量が多い場合の脊索消失分子機構 [3] 脊索でTRβの発現量が多くない場合、TRβKO動物のみで脊索消失が抑制される理由 [4] TRβKO動物では変態期における体幹部の脊柱の形成に表現型の変化は観察されるのか? [5] TRβKO動物では成体の髄核に表現型の変化は観察されるのか?
[1]は既に論文発表しており(Nakajima 2019)、[2]を解明するために既に論文を報告し(Nakajima 2020)、さらにKO動物の解析を行なっている。尾における発現量はTRβの方が多かったので、[3]は命題として消去された。[4,5]は今後の課題として残っている。
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今後の研究の推進方策 |
olfm4, scppa2-KO 動物の解析をさらに進め、これらの遺伝子の変態における役割を明らかとする。同時に、以下の課題 [4,5] についても研究を行う。課題[4] TRβKO動物では変態期における体幹部の脊柱の形成に表現型の変化は観察されるのか? 課題[5] TRβKO動物では成体の髄核に表現型の変化は観察されるのか? さらに TRβKO動物の脊索における遺伝子発現を解析したところ、olfm4 の発現のみが減少していたことは、これまで考えられていなかった TRβ 特異的な遺伝子発現機構の存在を示唆しており、極めて興味深いものである。今後は olfm4 promoter についても解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
組織学的解析が遅れており、分担者協力金の使用が予定よりも少なくなった。 次年度に解析をする予定なので、次年度に予算を使用する。
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