研究実績の概要 |
申請者らは、最近、発生初期の概日時計が未形成のマウス胎児では、母体内にあっても概日リズムがほとんど見られず「概日時間情報の遮蔽」状態にあることを報告した(Umemura et al., PNAS, 2017)。哺乳類の体内時計の中枢は視床下部にある視交叉上核であるが、全身の細胞に概日リズムの遺伝子発現振動があることがわかっている (Yagita et al., Science, 2001)。これまでの研究から、概日時計は、発生初期には無く、個体発生が進むにつれて細胞自律的に約24時間周期の振動を生じることが明らかにされている。しかし、その発生初期に概日時計がないことの重要性は、明らかになっていない。本研究では、これらを明らかにすることを大きな目的としている。本研究室では、マウスES細胞をin vitroで分化させることや体細胞をリプログラミングしてiPS細胞を作製することで、「概日時計は細胞分化と細胞レベルで共役する」という新たな事実を報告した(Yagita et al., PNAS, 2010)。加えて、申請者は、様々な遺伝子改変したES細胞株を用いて、細胞分化に伴う概日リズムの形成メカニズムの一旦を明らかにしてきた(Umemura et al., PNAS, 2014;Umemura et al., PNAS, 2017)。具体的には、時計の振動をつくりだす時計たんぱく質群である、CLOCKタンパク質の翻訳後抑制やPERタンパク質の局在変化など、個体発生の初期では、複数の機構が概日時計を抑制するように働いていたのである。さらに、驚くべきことに、体内時計のある母親からの同調シグナルでさえ、発生初期の胎児には伝わっていなかった。本研究では、これらの発見を端緒に、さらに研究を推進している。具体的には、ターゲットの絞り込み、ES細胞やiPS細胞を用いた解析を行った。
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