研究課題/領域番号 |
19K06681
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
木村 健二 関西学院大学, 理工学部, 講師 (40644505)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞質流動 / 初期発生 / 極性形成 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞質流動が卵の発生に果たす役割を明らかにするため、線虫の受精卵で生じる細胞質流動を研究モデルとして解析を進めている。線虫の受精卵では受精直後にキネシン(kinesin-1)に依存した細胞質流動が生じ、この流れはランダムに方向が変わるという珍しい特徴を備えている(”Circulation”タイプ)。この間に精子核(精子由来の染色体と中心体の複合体)と表層顆粒の2種類のオルガネラの細胞内配置が変化するが、これらに細胞質流動がどのような効果を及ぼしているのかまだ不明である。まず通常条件での精子核と表層顆粒の動態を調べたところ、とくに精子核が大きな動きを示したことから、精子核に注目して詳細な解析を行った。精子核を蛍光タンパク質で標識した株を用意して顕微鏡撮影を行い、受精直後から精子核の細胞内配置の経時的な変化を定量化した。その結果、精子核は必ず卵の貯精嚢に近い側から侵入し、その後、徐々に侵入点から離れていく傾向にあることがわかった。但し、この移動は卵ごとにばらつきが大きかった。細胞質流動の流れを蛍光タンパク質で標識した卵黄顆粒で可視化して精子核と同時に観察したところ、細胞質流動と精子核の移動方向および速度の間に高い相関関係が見られた。キネシンの抑制で細胞質流動を止めたところ、精子核の移動は見られなくなった。また小胞体の断片化により流れの集団性を失わせた状態(”Agitation”タイプ)にしても精子核の移動は見られなくなることがわかった。これらの結果は、ある程度安定した集団的な細胞質流動が精子核を精子侵入点から押し流し、その細胞内配置を変えることを示している。精子核配置は線虫胚の極性形成(前後軸決定)に重要であるため、細胞質流動もその過程に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞質流動が初期発生に及ぼす影響として、線虫の受精卵に侵入した精子核の移動を見出し、その経時的な位置変化を定量化する手法を確立した。すでにこの実験系を用いて2種類の細胞質流動(”Circulation”タイプと”Agitation”タイプ)が精子核配置へ及ぼす影響を評価できており、明確な違いがでることを確認できている。これらの研究成果をまとめた論文の作製にも取り掛かっており、進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は細胞質流動が精子核を動かすことによって初期発生にどのような役割を果たしているのかを明らかにするため、線虫胚の極性形成(前後軸決定)に着目した解析を行う。このため、細胞質流動によって流された精子核の位置と将来の胚前後軸の方向性の関係性を調べる。具体的には、受精後の精子核がどの時期・どの位置に配置していれば、将来の胚の前後軸(前極と後極)の方向が決定されるのか、あるいは予測できるのかを明らかにする。さらにキネシンや微小管に関連する線虫の変異体を新たに樹立することで、まだ解析を行っていない”Rotation”タイプの細胞質流動を有する受精卵を用意し、細胞質流動の流れ方の違いが及ぼす効果を同様にして評価する。また、各タイプ(”Agitation”, ”Circulation”, ”Rotation”)の流れの撮影データの画像解析を行い、流れが活発な時期や、流れの向きが変わりやすい時期などを評価する。この結果と精子核の位置変化との相関関係も明らかにする。このような解析により、さまざまな細胞内の流れが初期発生に果たす具体的な役割を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は初年度に倒立顕微鏡(ZEISS Axio Vert A1)を蛍光照明付きで購入する計画であった。しかし、予算の大半を使うことになり消耗品用の費用が心配されたことと、別の研究用の同等の装置が使用可能となったことで、購入を見送った。このため、次年度使用額が生じた。残額は本研究計画に必要な線虫の変異体を樹立するのに用いる機器(微量注射関連装置とPCR装置)の購入費に充てる予定である。
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