研究実績の概要 |
本研究では、細胞内で集団的に細胞質が流れる現象として知られる細胞質流動が卵の初期発生に果たす役割を解明することを目的として研究を進めた。動物細胞における細胞質流動は受精前後の卵で顕著に見られ、発生過程に重要な役割を果たすと考えられている。細胞質流動は種や時期により様々なタイプの流れ方があり、細胞質の流れのしくみや役割についてまだ理解は進んでいない。本研究は線虫C. elegansの受精直後の卵で生じるキネシン(kinesin-1)に依存した細胞質流動を研究モデルとして解析を進めた。この流れは一方向性であるが、確率的に向きが変わるという特性を備えている。昨年度は、途中で流れの向きが変わることで精子核(精子由来の染色体と中心体の複合体)の卵内における配置が大きく変わり、線虫胚の極性形成(前後軸決定)に影響することを初めて明らかにした(Kimura K. and Kimura A., Mol Biol Cell 2020)。しかし、どのようにして細胞質流動が受精直後のタイミングで生じるのか、そのメカニズムは不明であった。そこで最終年度では、受精に伴う細胞周期の再開に着目し、細胞周期に関わる分子群が細胞質流動に及ぼす影響について解析を行った。その結果、細胞周期の進行に重要な特定の分子がキネシンに依存した細胞質流動の開始に必要であることが判明した。以上の結果から、受精を合図として再開する細胞周期の進行が細胞質流動を発生させ、それにより精子核の細胞内配置を変えることで将来の極性形成に影響を及ぼすという一連の流れが線虫胚であることがわかった。本研究により初期発生における細胞質の流れが卵内に及ぼす効果の重要性が示された。細胞質流動は多くの動物の正常な受精卵の中でも生じていることから、本研究成果は正常に発生する受精卵を判別する上で細胞質流動が重要な指標となり得ることを示唆している。
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