研究課題
染色体を分配する紡錘体が二極性であるということは染色体を正しく分配するうえで非常に重要である。多くの体細胞においては中心体が紡錘体の極性を決定づけている。しかし哺乳動物の卵母細胞は中心体を持たず、紡錘体が二極性化するのに長い時間を要し、中心体を持つ体細胞や精母細胞に比べて染色体分配異常がおこりやすい。そしてその卵母細胞における中心体非依存的な紡錘体の二極性化機構は未だ明らかになっていない。近年我々は、①マウス卵母細胞の減数第一分裂では動原体が紡錘体の二極性化に必要であるということ、さらに②卵母細胞においては減数第一分裂と第二分裂では紡錘体の二極性化機構が異なることを新たに見出した。本研究の目的はマウス卵母細胞の減数第一分裂と第二分裂において、それぞれ異なる紡錘体の二極性化機構を明らかにすることである。減数第一分裂と第二分裂における紡錘体の二極性化機構を解明、比較することにより、哺乳動物の卵母細胞において染色体分配異常がおこりやすい原因の解明を目指す。我々は卵母細胞の動原体には微小管のクロスリンカータンパク質が集積しており、動原体に局在するリン酸化酵素を阻害することで動原体に集積するクロスリカータンパク質の量が低下することを見出した。そこで動原体に局在するリン酸化酵素をを阻害した卵母細胞における紡錘体の形態変化の解析を行った。また、マウス卵母細胞の減数第二分裂では微小管のクロスリンカータンパク質の量が増加しており、減数第一分裂とは異なる動原体非依存的な機構により紡錘体が二極性化することを見出した。そこで微小管のクロスリンカータンパク質を抑制した状態で減数第一分裂と第二分裂における紡錘体の形態変化を解析した。
2: おおむね順調に進展している
我々は卵母細胞の動原体には微小管のクロスリンカータンパク質が集積しており、動原体に局在するリン酸化酵素を阻害することで動原体に集積するクロスリカータンパク質の量が低下することを見出した。動原体に局在する複数のリン酸化酵素を同時に阻害することにより動原体に局在する微小管のクロスリンカータンパク質を著しく減少させることを明らかにし、その条件下で紡錘体の形態変化の解析を行った。その結果、紡錘体の二極性化には微小管のクロスリンカータンパク質だけでなく動原体ー微小管の安定な接続も関わっていることが予想された。そこで動原体と微小管との接続能を低下させた状態で動原体に局在するリン酸化酵素を阻害すると紡錘体が二極性化できなくなることを明らかにした。また我々は、マウス卵母細胞の減数第二分裂では微小管のクロスリンカータンパク質の量が増加しており、減数第一分裂とは異なる動原体非依存的な機構により紡錘体が二極性化することを見出した。そして減数第一分裂において、逆方向性微小管のクロスリンカータンパク質を増加させることで動原体の機能を欠失していても紡錘体が二極性化できるようになることを明らかにした。そこで逆方向性微小管のクロスリンカータンパク質を抑制した状態で減数第一分裂と第二分裂における紡錘体の形態変化を解析した。微小管のクロスリンカータンパク質を抑制した卵母細胞では減数第一分裂では紡錘体の二極性化が遅延した。しかし減数第二分裂では動原体と微小管の接続能を低下させた状態でも、紡錘体の二極性化への顕著な影響は観察されなかった。減数第二分裂では複数の微小管架橋タンパク質が量的に増加しており、それらが協調的に動原体非依存的な紡錘体の二極性化機構に機能していることが予想された。
逆方向性微小管のクロスリンカータンパク質を増加させることで、動原体の機能を欠失していても減数第一分裂において紡錘体が二極性化することが明らかになった。しかし一方で逆方向性の微小管クロスリンカータンパク質を抑制し、動原体の機能を欠失させた条件下でも減数第二分裂においては紡錘体が二極性化する。減数第一分裂に比べ、減数第二分裂では複数の微小管制御因子が増加しているため、これら複数の微小管制御因子が減数第二分裂の紡錘体の二極性化には重要であることが予想される。マウス卵母細胞における紡錘体は、減数第一分裂では数時間かけて緩やかに二極性化される比べ、減数第二分裂では数分で速やかに二極性化され、その動態や形状が異なる。そこでまずこれらの微小化制御因子を減数第一分裂の卵母細胞に強制発現し、紡錘体の二極性化への影響を解析する。さらにこれらの因子を複合的に抑制した減数第二分裂の紡錘体形成を解析する。また、減数第一分裂においては動原体ー微小管の安定な接続が紡錘体の二極性化に機能していることが予想された。そこで我々は動原体ー微小管接続の安定性を制御する変異型動原体タンパク質を作製した。これらを用いて動原体ー微小管の安定な接続が紡錘体の二極性化に与える影響を明らかにする。
成果発表論文執筆のためのデータ解析を優先的に行ったため、一部の実験計画を次年度へと移した。また実験に利用している物品の一部がメーカーにおいて生産が遅延しているため、予定していた分の物品を購入することが出来なかった。これらの理由により当該年度使用額が減少し、次年度使用額が生じた。当該物品の生産が困難となった場合は他社代替品を使用して実験を行う。
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Nature communications
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10.1038/s41467-020-16488-y.y