研究課題
これまで我々の研究から、表皮形成・誘導に重要な働きを持つことが知られているGrainyhead-like3(Grhl3)遺伝子と直接結合し相互作用をもつ因子の探索を行っており、現在一つの候補タンパクを同定している。今年度はその候補因子の遺伝子欠損マウスをCRISPR/Cas9システムで作製し、シングルホモ変異マウスの表現型解析を行った。結果、この新規同定因子の遺伝子欠損胚では原条形成時期(受精後6.5日目頃)に明らかな形成異常が見られ、胚性致死となることがわかった。具体的には、着床前後に形成される胚性外胚葉、臟側内胚葉は正常に形成されるのに対し、中胚葉(原条)の形成が全く起こらないことがわかった。またこの遺伝子欠損胚では、ノンカノニカルWnt経路に関わる因子(PCP関連マーカー;Vangl2, SCRIB) は低下し、一方でカノニカルWnt経路に関わる因子 (beta-cateninなど)は発現の変化は見られなかった。Grhl3因子は、ノンカノニカルWnt経路であるplanar cell polarity (PCP) 経路と協調的に働き、表皮形成に関わっていることが知られている (Kmura-Yoshida et al., 2015; 2018)。そこで、我々はこの新規遺伝子欠損マウスとPCP関連遺伝子欠損マウス(Vangl2遺伝子欠損マウス)とを交配させ、ダブル変異マウスにおける表現型解析を行うことを考えている。現在はまだ予備的な実験的実験結果であるが、ダブル変異マウスでは、Vangl2ホモ欠損胚で見られる異常に加え、さらに重篤な形成異常が見られることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度にはGrhl3因子と相互作用する新規因子の遺伝子欠損マウスを作製、表現型解析を終えることが出来た。また、PCP経路とのダブル変異マウスの作製を済ませており、現在表現型解析を進めている。
今後、新規に同定した遺伝子欠損マウスと、既に交配済みのVangl2遺伝子欠損マウスとのダブル変異マウスや、Grhl3遺伝子欠損マウスとのダブル変異マウスの樹立を試み、これらダブル変異マウスの表現型解析を行う。また今回同定された新規因子とGrhl3因子の相互作用する結合ドメインの領域を探索するために、生化学的な手法(IP法)などを用いて明らかにする予定である。
今年度は新型コロナ感染拡大の影響で、国内・国外の出張、学会参加等が全く出来なかったことが、次年度に研究費が繰り越された主たる原因と考えられる。次年度以降、新型コロナの感染が落ち着けば共同研究や学会発表を加速することで使用予定である。
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Cell Report.
巻: 19 ページ: 107637
10.1016/j.celrep.2020.107637.