研究課題/領域番号 |
19K06685
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所) |
研究代表者 |
吉田 千春 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 病因病態部門, 主任研究員 (60360666)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 顕在性二分脊椎 / 核-細胞質輸送 / カノニカルWnt経路 |
研究実績の概要 |
Grainyhead-like3(Grhl3)遺伝子は、その発現様式や遺伝子欠損マウスの表現型から、表皮マスター因子として、発生の各表皮組織で働くことが明らかとなってきている。またGrhl3遺伝子ホモ欠損マウス胎児では、100%の発症率で顕在性二分脊椎を発症し胚性致死となる。そこで、我々はGrhl3因子の表皮細胞における機能、また顕在性二分脊椎を発症する発症機序を明らかにするため研究を進めてきた。これまでの解析結果から、Grhl3因子は表皮細胞の分化やその後の特異的な細胞動態(弾性率の富んだ)へと変化する際に、Grhl3タンパク質は核から細胞質へとその局在を変えることを明らかにした(Kimura-Yoshida et al., 2018. Nat. Comm.)。さらに、GRHL3因子を細胞質で安定化させるために必要な因子、脱ユビキチン化酵素USP39因子を同定し、GRHL3因子と直接結合し、さらに表皮細胞内のアクチンフィラメントを豊富にすることで弾性率の富んだ表皮細胞へと細胞動態を変化させることを明らかにした(Kimura-Yoshida et al., 2022. Comm. Biol.)。 一方、未分化性外胚葉から表皮細胞へと分化する際に、Grhl3因子は核内でcanonical Wnt経路と協調的に働く分子機序については全く解明されていない。そこで、Grhl3因子と結合し、未分化性外胚葉の核内で表皮細胞へ分化を進める制御因子の同定を試みる。現在、Grhl3因子とタンパク間相互作用を示し、かつ核内局在を示す因子を数個同定している。今後、これらの因子に対して、Grhl3因子との直接的な相互作用の有無を検証し、さらに表皮分化における機能解析、遺伝子欠損マウスを用いた遺伝的相互作用について明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでGrhl3遺伝子欠損によって、顕在性二分脊椎をどのようにして発症するのか3本の国際雑誌に発表しており(Kimura-Yoshida et al., 2015. 2018, 2022)、いずれもGrhl3因子の生体内における機能解析であり、表皮細胞の分化にどのように関わっているのかを分子レベルで明らかにできていると考えているため。
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今後の研究の推進方策 |
今後(今年度)は、これまで明らかにされていない、GRHL3因子が核内に局在するために必要な制御因子の同定を行いたいと考えている。つまり本研究課題では、マウスの神経管閉鎖時にGRHL3タンパクを核内に局在させ、その後GRHL3因子が未分化外胚葉を表皮細胞へと運命決定させるパートナー分子の同定、機能解析を試みる。 具体的な方法は、GRHL3抗体に対する免疫沈降法を行い、SDS-PAGEによって得られたゲル断片から質量分析にてタンパク質の同定を行う。次に、その因子の詳細な発現解析(in situハイブリダイゼーションや免疫組織学解析)を行い、表皮形成時に核内に局在する候補因子を絞る。その後、それらの遺伝子欠損マウスを作製し、生体内における機能解析を行う。また、GRHL3遺伝子欠損マウスとのダブル変異マウスを用いて遺伝的相互作用を検証する。これらの研究によって、表皮組織におけるGRHL3因子を介した神経管閉鎖時に必要な一連の分子機序を明らかにし、顕在性二分脊椎の新たな発症機構を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で予定していた機器が国内に入荷されないことがわかり、代替えの機器を購入したなどして、予算が余った。また最終目標であるGrhl3因子の核内パートナー因子の生体内における機能解析が終了しておらず、国際誌にも受理されていないため。 今年度は、国際誌に論文投稿を目指し、必要な消耗品やマウス購入などに使用する予定である。
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