研究課題/領域番号 |
19K06686
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕公 群馬大学, 生体調節研究所, 准教授 (40545571)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 卵子活性化 / プロテオミクス / 初期発生 / イメージング |
研究実績の概要 |
現在、我が国を含む先進諸国では6組に1組以上の夫婦が不妊に悩み、社会問題となっている。特に近年は高齢期の卵子発生能の低下が発露することにより、女性原因の不妊が急増したとされ、より産仔に結び付きやすい(=よい質の)胚を見出す判定法の開発が強く求められている。 これまでの胚の質研究において先行しているのは、染色体の安定性や転写・翻訳の差といった、細胞内の因子の解析に基づくもので、評価には卵子の中にそれら因子を可視化するようなインジケーターを注入したり割球を採取する必要があり、侵襲性が高く診断法としては向いていないと考えられる。 本研究では、ヒト卵子に似た特徴を示すマウス卵子を用いて胚の表在タンパク質に注目した比較プロテオミクス解析を推進し、これまでの申請者らの成果を利用し、哺乳類胚の超低侵襲性イメージング法を駆使した機能解析をはじめとした遺伝子機能解析を行い受精や初期発生における役割を解明することを目的としている。 当該年度は、野生型の未受精卵について未標識の細胞全体の可溶化物、表面蛋白質を標識・精製した抽出物に関するプロテオミクス解析を行い、代表的な表在蛋白質を基準としそれぞれの手法による検出感度等を得ることに成功し、必要な卵子の個数を算出したうえで比較プロテオミクス解析のための試料調整を進めている。また、野生型マウス及び卵子の性質に変調をきたす遺伝子変異マウスの卵子などについてプロテオミクス解析用試料の収集を進めているほか、検討段階で注目する分子をいくつか検討し、上記機能解析の基盤を構築した。また、卵子表在蛋白質で受精において重要な役割を果たすCD9蛋白質の構造及び機能について論文を発表することができた(Nat. Commn. 2020 Mar (共同筆頭著者))
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス卵子は、性ホルモン等を用いた過剰排卵条件下においても~30個/成熟個体程度の細胞数しか得ることができない希少な生体材料であり、また卵を囲む数種類の蛋白質のみからなる巨大細胞外基質の透明帯がプロテオミクス解析における検出の感度や細胞蛋白質量の算定などを妨げる懸念がある.また、プロテオミクス解析の解釈にあたり、卵子内のオルガネラの状態(量や活性など)といった細胞質への理解も必要であった. われわれは、細胞表面の蛋白質の組成の変化を避ける目的で非酵素的に透明帯を除去するアプローチを選択し、ここまでに主に野生型の未受精卵について細胞全体の可溶化物または表面蛋白質の化学標識後の卵子蛋白質およびその精製物によるプロテオミクス解析を行い、代表的な表在蛋白質を基準としそれぞれの手法による検出感度等を得ることができた.一方、卵子内のオルガネラ状態についてもイメージングを用いた解析からミトコンドリア・小胞体・脂肪滴の存在比率が高いことを見出した. 現在、上記の結果から最低限必要な卵子の個数について検討を終えたほか、さらに検出感度の高い比較解析を行える包括的なプロテオミクス法によって実施することを基本方針と決め、野生型マウス及び卵子の性質に変調をきたす遺伝子変異マウスの卵子などについてプロテオミクス解析用試料の収集を進めている.また、細胞全体の可溶化物に占める卵子表面分子の予測が、ドメイン構造などによる推察からどの程度可能かについて、いくつかの同定蛋白質と蛍光蛋白質との融合蛋白質に関するmRNAの卵子への注入により明らかにした。さらに、特に存在比率が高い表面蛋白質に数種を用いて、受精前後および初期発生における各段階において外来のmRNA注入によって非侵襲的にこれらの動態を追うイメージング系の構築も終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究のコアデータとなる包括的比較プロテオミクスの結果を蓄積するために、予定通り卵子の受精後の振る舞いが異なるとされる様々な様式で受精させた受精卵を用意する。また、すでに受精や初期発生において野生型の卵子との間に差が生じることが知られているいくつかの遺伝子欠損/組み換えマウスの収集が終わっているため、これらからも卵子を得て比較解析を目指す。 ここまでの予備実験の中ですでに有用と思われるマーカー蛋白質の候補をいくつか挙げており、それらと蛍光蛋白質との融合蛋白質をコードするmRNAの注入によって動態解析を行った結果、非侵襲的に(胚の発生をそれ自体によって妨げることなく)蛍光2波長観察する手法については構築している。その手法を用いて、上記のプロテオミクス解析から新たに候補として挙がった蛋白質についても未受精卵・受精卵などでの局在及びその動態の解析を開始する。同時に、これらに関する遺伝子改変マウスの作出と収集を開始する。 ここまで、予備実験の中で今後の解析の候補として挙げたものの中には、遺伝子欠損をさせることで卵子の形成が良くなくなるか、卵子を提供する母体の生存や成熟に重要なものも多く含まれていた。そのため、人為的で選択的な蛋白質分解法、または翻訳抑制法を導入し、野生型の卵子などからこれらの蛋白質を消失させる工夫を検討しつつあり、これらも今後の蛋白質の解析に活用したい。 また、特に受精や初期発生に重要と思われるもの、あるいは比較プロテオミクスにおいて群間で差が大きかったものについては、抗体を用いた免疫染色やウェスタンブロッティングなどを用いて内因性の蛋白質存在量の確認なども丁寧に行うほか、CD9において行ったような立体構造解析からも有用な知見を得られる可能性があるので、積極的に検討し標的分子に関する包括的な理解を目指す。
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