研究課題/領域番号 |
19K06687
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 昌和 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 准教授 (60580496)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エピブラスト |
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生では、ゆらぎにより個々の細胞の分化状態などに一時的にばらつきが生じる。正確な発生を遂行するためには不適合な細胞を排除することが必要であり、その様な排除を行う仕組みの一つに細胞競合がある。しかし細胞競合研究の多くはハエの組織や培養細胞に人為的に導入した前がん状態の異常細胞の排除の研究であり、哺乳類の正常発生で生じる細胞状態のばらつきに関する研究は少ない。特に隣接細胞の状態を認識するメカニズムについては全くわかっていない。本研究では申請者が見出した、着床前マウス胚の多能性細胞(エピブラスト)の形成時に起こる細胞競合による品質管理機構に着目し、不適合な細胞を認識するしくみを解明することを目的とし研究を行なった。 これまでにマウス着床前胚E4.5のエピブラストのscRNAseqを行った結果、エピブラストが形成される際に排除される不適応細胞はE4.0相当の内部細胞塊の細胞と近い遺伝子発現パターンであったことから、12時間ほど発生の遅れている(あるいはその時点で発生が停止している)細胞であることが明らかになった。また、E4.5におけるエピブラスト細胞と排除される細胞のあいだでリガンドー受容体の関係にあるようなペアをそれぞれ特異的に発現している遺伝子を同定した。また、その当該リンガンド、受容体のノックアウトマウスおよび強制発現させるトランスジェニックマウスを作成した。これらのツールによりLoss of functionおよびgain of functionの実験系を可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
E4.5におけるエピブラスト細胞と排除される細胞のあいだでリガンドー受容体の関係にあるようなペアをそれぞれ特異的に発現している遺伝子を同定し、当該受容体(以下receptor)を強制発現させるTgマウスを作出するとその胚自身はエピブラスト形成能力があるものの、野生型とのキメラ胚を作成するとreceptor強制発現細胞がエピブラストから排除された。また、発生の12時間遅れた胚を人為的に作成すると発生の進んだ胚によってエピブラストから排除されることがわかった。しかし、この発生の遅れた細胞にドミナントネガティブ型のreceptorを発現させると発生の進んだ細胞とのキメラ胚のエピブラストから排除されるのを免れた。野生型胚において、エピブラスト細胞は発生が進行すると当該リガンド(以下ligand)の発現が上昇し、受容体であるreceptorの発現が低下することから、エピブラスト形成時において、何らかの理由で発生の停止あるいは遅延を起こした細胞は、自身が高発現するreceptorを介して、周辺の発生の進んだ細胞からligandの刺激を受け、過剰にシグナルが入り、細胞死が誘導される可能性が考えられた。ligandシグナルはこれまで原始内胚葉への分化誘導に重要と考えられてきたが、不適応細胞の排除にも利用していそうである。ただ、予想外にもリガンドノックアウト胚でも細胞の排除がおきていることから、必ずしもリガンド依存的ではない可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で見出したシグナルがリガンド依存的に入力されるのか、リガンドなしでも入力されるのかを区別する実験を行う。 また、なぜ発生遅延を起こすような細胞が出現するのかは不明である。ヒト着床前胚においても一部の割球において染色体分配の異常を引き起こし、それらは発生に影響を及ぼすため排除されることが報告されている。しかし、そのメカニズムや生理的意義は解明されていない。本研究成果はモザイク胚を用いた実験系であるため、ヒト初期胚におけるモザイク変異のよいモデルとなりうる。今後は本研究において活用した手法を用いて、なぜ発生遅延細胞が出現するのか?その細胞を排除する意義は何か?についての研究を展開し、そのメカニズム解明のあかつきにはヒトの不妊の原因解明などに将来つながる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に見出したリガンドー受容体のエピブラスト細胞競合における重要性について明らかにすることができたが、そのリガンド依存性については明らかにできなかった。次年度にはリガンドの依存性について検証する実験をおこない、それにかかるマウス飼育、RNAシーケンスの外注代や本研究成果を発表するための学会への参加旅費などに使用する予定である。
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