血管を循環するほとんど全ての血液細胞・免疫細胞を産生する造血幹細胞および前駆細胞は骨髄に存在するニッチと呼ばれる特殊な微小環境によって維持・制御されている。これまでの研究により、ケモカインCXCL12を高発現する細網細胞(CAR細胞)が、造血幹細胞・前駆細胞ニッチの中心的な構成細胞であることが示された。さらにCAR細胞の形成と維持に必須の転写因子Foxc1およびEbf3/1が同定され、それぞれCAR細胞の脂肪細胞と骨芽細胞への分化を抑制しニッチとしての特性を維持していることが明らかになったが、CAR細胞の発生および機能維持の分子機構の多くは未だに不明である。本研究ではCAR細胞特異的遺伝子の発現誘導など、CAR細胞のニッチとしての機能に重要と考えられる新規の転写因子等の遺伝子を同定し、それらのfloxマウスを作製した。各種Creマウスと交配しCAR細胞系列特異的遺伝子欠損マウス等を作製し、造血や骨の解析を行った。いくつかの遺伝子欠損マウスにおいてはCAR細胞のサイトカイン産生の低下および骨髄造血の低下を認め、その重要性を明らかにした。そのひとつであるC/EBPαはCAR細胞で欠損させると壮年マウスにおいて海綿骨の増加と骨髄領域の減少と骨髄細胞数の減少を認めた。さらにC/EBPαに加えてC/EBPδ遺伝子も欠損させたマウスでは若年マウスにおいても表現型が認められたことからC/EBPδはC/EBPαの機能を補っており、共に骨芽細胞への分化を抑制していることが明らかになった。またCAR細胞で欠損させると骨髄の著しい線維化と造血不全を引き起こす転写因子群も見出し、当該遺伝子の詳細な機能解析を進行している。
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