研究課題/領域番号 |
19K06689
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
荻野 肇 広島大学, 両生類研究センター, 教授 (10273856)
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研究分担者 |
越智 陽城 山形大学, 医学部, 准教授 (00505787)
井川 武 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (00507197)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 発生 / 進化 / ゲノム重複 / 転写因子 / 偽遺伝子 / ゲノム編集 / アフリカツメガエル / ネッタイツメガエル |
研究実績の概要 |
ゲノム重複に伴う遺伝子進化の仕組みを解明する為、neurogeninファミリー遺伝子(ngn2及びngn3)をモデルに、ネッタイツメガエルの祖先型遺伝子とそれに対するアフリカツメガエルのオーソログ(倍加遺伝子ペア)の比較研究をおこなった。昨年度の解析から、ngn2に関しては、ネッタイツメガエルの祖先型とアフリカツメガエルの倍加遺伝子ペアの内の1つ(ngn2.L)が、いずれも神経系で発現するのに対して、アフリカツメガエルのもう1つの倍加遺伝子(ngn2.S)は発現を殆ど失っており、かつDNA結合に必要なbHLHドメインのコード配列に非同義置換を蓄積していることが明らかになった。今年度は機能比較のために、胚への強制発現実験をおこなったところ、ネッタイツメガエルの祖先型ngn2とアフリカツメガエルのngn2.Lが、神経分化マーカー(beta-tubulin)の異所的発現を強く誘導したのに対し、変異蓄積型のngn2.Sではその活性が低下していることがわかった。ngn3に関しても、昨年度の解析から、ネッタイツメガエルの祖先型ngn3とアフリカツメガエルの倍加遺伝子ペアの内の1つ(ngn3.S)が、いずれも神経系と腸菅で発現するのに対して、アフリカツメガエルのもう1つの倍加遺伝子(ngn3.L)は発現を部分的に失っており、かつDNA結合に必要なbHLHドメインのコード配列に非同義置換を蓄積していることが明らかになった。今年度はCrispr-Cas9法を用いて遺伝子破壊実験をおこなったところ、腸細胞の分化にngn3.Sは必要であるのに対し、変異蓄積型のngn3.Lは必要ではないことがわかった。以上の結果は、変異蓄積型のngn2.Sとngn3.Lが、いずれもシス調節変異とコード変異を蓄積しながら偽遺伝子化に向かっていることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で検証する仮説は、「特定の組織に限局して発現する遺伝子は、少ない数のエンハンサーを持つ為、倍加コピーが形成されて純化選択圧が低下すると、少しのシス変異蓄積でも発現を失いやすい、その為に1コピーに回帰しやすい」というものである。ngn2とngn3は神経系や腸の一部に限局して発現し、少ない数のエンハンサーを持つと予想される遺伝子の典型例である。昨年度の発現解析と配列解析に加え、今年度は強制発現実験と遺伝子破壊実験によって、それらの遺伝子がゲノム重複後に1コピーに回帰しつつあることを示すことができた。さらに予備的な比較ゲノム解析により、ngn2とngn3のエンハンサーの数が、他の2コピー維持されている倍加遺伝子群と比較して少ないことを示唆するデータも得られている。以上、予定通り仮説の検証実験が進んでおり、概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まずngn2の倍加遺伝子ペアについても遺伝子破壊実験をおこなう。またneurogeninファミリーのみならず、祖先型ゲノムをもつネッタイツメガエルの発生制御遺伝子群について網羅的にエンハンサーの同定をおこなう。この解析結果を元に、アフリカツメガエルにおいて倍加遺伝子が2コピーとも発現を失わずに残っているグループに対する祖先型遺伝子群よりも、倍加遺伝子の片方のコピーが発現を失っている、あるいは完全に偽遺伝子化しているグループに対する祖先型遺伝子群の方が、エンハンサーの数が少ないかどうかを調べ、本研究の仮説の妥当性をゲノムワイドに検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)今年度はコロナ感染防止のため研究活動が制限され、動物実験の一部をコンピューター解析に変更せざるを得ず、その差額分の支出が減少した。具体的にはトランスジェネシス実験によってエンハンサーの同定解析をおこなう予定であったが、その代わりに、コンピューターを用いたゲノム配列の種間比較により保存非コード配列を同定し、それを転写共役因子p300の結合部位のゲノムワイドデータと重ね合わせることにより、純化選択圧を受けているエンハンサー候補領域の網羅的な予測をおこなった。
(使用計画)次年度はこのエンハンサー領域の予測データを用いて、より効率的にトランスジェネシスによるエンハンサーの同定解析をおこなう予定である。また予定通り、ngn2等の偽遺伝子化の途中にあることが示唆された倍加遺伝子ペアについて、遺伝子破壊実験をおこなう。今回生じた次年度使用額はこれらの実験の遂行に用いる。
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