本研究では、両生類を「脊椎動物での受精機構のモデル」として用いて、単精受精での卵・精子の膜接着・融合の制御による早い電気的多精拒否の分子機構を詳細に解明した。早い電気的多精拒否は多くの動物で知られているが、我々は精子膜上に正に荷電したMMP-2が分布し、電気的多精拒否に重要であることを始めて発見した。また、MMP-2は受精時の膜融合を調節している可能性について明らかにした。(1)MMP-2 HXP遺伝子の14塩基対を欠失し、MMP-2をもたないネッタイツメガエル(X. tropicalis)をゲノム編集により作成した個体を用いて、受精時の電位感受性がMMP-2 の欠失によりどのように変化するかを膜電位固定法により未受精卵の膜電位を変化させることで詳細に検討した。これにより、MMP-2が電位感受性受精において必須の機能をもつことを証明した。(2)電位感受性の異なる種(イモリなど)の精子でのMMP-2の発現と電位感受性との相関を明らかにし、MMP-2 HPXの電位感受性受精での機能を明らかにした。また、正の受精電位精子MMP-2 HPXと卵細胞膜上のGM1との結合を阻害することで第二番目以降の精子の膜接着・融合を阻止していると考えられる。本年度には、MMP-2欠失精子の細胞膜と核を生体蛍光染色し、Ca2+感受性蛍光色素を注入した卵を受精させることで卵への精子接着と[Ca2+]i上昇を同時に測定し、MMP-2 の[Ca2+]i上昇(卵賦活)での役割を明らかした。とくに、[Ca2+]i上昇は膜融合後に起きることがわかり、MMP-2は電位感受性受精における膜接着・融合を電気的に制御している可能性が高いことを明らかにした。
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