研究実績の概要 |
造血細胞は胚発生期に背側大動脈の血管内皮細胞が分化転換することにより産生される。この現象は「内皮-造血転換」と呼ばれる。内皮-造血転換を経て血管壁から遊離した造血細胞群は血流循環を経て最終的に骨髄まで移動し、造血幹細胞として維持される。内皮-造血転換は、胚性造血と成体型造血(骨髄造血)とを直接的に繋ぐ分化転換現象であるが、扁平な血管内皮細胞から球形の造血細胞への形態的な変化を引き起こす細胞生物学なメカニズムは解明されていない。本研究では血流に起因する剪断応力刺激が内皮-造血転換に関わるというこれまでの知見を踏まえ、水チャネルAQP1に着目して機能解析を行っている。 前年度までの解析から、AQP3, 5, 8, 9, 11がAQP1と同様に内皮-造血転換過程の細胞群において発現することが判明している。本年度はこれらのAQPファミリー遺伝子群についてCRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて多重機能欠失変異実験を行った。その結果、AQP1, 5, 8, 9, 11を同時にノックアウトした造血性血管内皮細胞群において球状化が阻害された。このことから、形態的な内皮-造血転換過程にはAQPが冗長的に働くことが判明した。また、免疫電子顕微鏡観察(先端バイオイメージング支援プラットフォーム, ABiSによる支援)を行い、AQP1は造血性血管内皮細胞において細胞膜と液胞膜の両方に局在することをつきとめた。これらの結果から、内皮-造血転換においてAQPは液胞内への水流入を担うことで細胞の球状化を促進する可能性が示唆された。
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