研究課題/領域番号 |
19K06695
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
磯野 協一 和歌山県立医科大学, 共同利用施設, 准教授 (90323435)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNA修復 / ポリコーム / 幹細胞 / マウスES細胞 |
研究実績の概要 |
転写抑制因子ポリコーム群複合体は細胞分化や細胞増殖に関わる多くの遺伝子を可逆的に抑制することで幹細胞の分化や自己複製を制御している。最近、申請者はポリコーム群複合体の成分PHC2がDNA損傷誘導的にリン酸化され、幹細胞のDNA修復に貢献する結果を得た。これはポリコーム群が幹細胞の自己複製能、多能性に加え遺伝情報維持にも働いていることを示唆している。本研究では幹細胞ポリコーム群が関わるDNA損傷修復の分子基盤を解明するために次の課題に着手した。 1.特定された部位でDNA損傷を誘導する系の確立とPHC2の役割解析 配列特異的DNA切断の薬剤誘導システム(Iacovoni et al., 2010)をマウス胚性幹(ES)細胞に導入した。前年度、Phc1/2二重欠損型(dKO)ES細胞にDNA切断ストレスをかけ続けると、その生存が著しく低下(~0.1%)すること、一方、野生型Phc2遺伝子をアドバックした細胞では、予備的であるが生存が改善されたと報告した。しかしながら、再現実験で複数の細胞(ヘテロおよびホモ組換え)をテストしたところ、前年度とは真逆の結果を得た。さらにPHC2機能に影響する2種類の変異型はdKOと野生型の中間の生存率となった。以上から、今年度に得られた結果が正しいと結論づけた。これまでの研究論文では、本結果の生存率『dKO>変異型>野生型』をうまく説明することができない。未解明の役割が介在していると思われる。この役割解明が今後の課題である。 2.ポリコーム群によるヒストンH2AXユビキチン化の役割解析 ポリコーム群RING1BはH2AXのK118およびK119をユビキチン化する。その役割解明のためにK118/119R変異ES細胞を利用しようとしたが、前年度に報告したように、本テーマの遂行を保留とした。しかしながら、最終年度では再開するつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.特定された部位でDNA損傷を誘導する系の確立とPHC2の役割解析 8塩基対制限酵素AsiSI-エストロゲン受容体融合遺伝子がゲノム挿入されたdKO ES細胞(dKO-Asi)は、タモキシフェン存在下で著しく生存率を低下させ、さらにDNA損傷マーカーγH2AXが上昇したことから、AsiSIが適正に働いていると判断した。CRISPR/Cas9法によりdKO-Asi細胞のROSA26領域にPhc2遺伝子の野生型(WT-Asi)、DNA損傷誘導リン酸化残基(セリン)のアラニン置換型(SA-Asi)、ポリコーム群複合体重合に必要なドメインの機能不全型(LR-Asi)をノックインし、それぞれ数個のホモ組換え型、ヘテロ組換え型を得た。各ホモ型細胞(100,000個)をタモキシフェン存在下で培養すると、dKO-Asi 約100個、WT-Asi 約10個、SA-Asi 約40個、LR-Asi 約40個がコロニーを形成した(各数値差p<0.05)。同様の傾向はヘテロ型間でも観察された。生存した細胞はその後継代を繰り返してもタモキシフェン耐性であったことから、AsiSI配列は既に消失していると考えられる。この結果はDNA損傷応答におけるPHC2、そのリン酸化、およびポリコーム群重合の重要性を示唆しているが、その役割は単なるDNA修復効率ではないようである。PHC2は細胞増殖のための修復というよりはむしろ、細胞機能が維持される適正な修復に関与しているのかもしれない。AsiSI部位はハプロイド当たりおよそ1000個ある。個別切断部位の解析によって、PHC2の役割を追究する必要がある。なお複数の組換え型の樹立には、予想以上の時間と労力を費やした。
2.ポリコーム群によるヒストンH2AXユビキチン化の役割解析 前年度に報告した理由により、本課題は保留としたため新しい成果は得られてない。
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今後の研究の推進方策 |
1.特定された部位でDNA損傷を誘導する系の確立とPHC2の役割解析 DNA損傷ストレスを継続的に与えると、各細胞の生存率は、『dKO>SA=LR>WT』となることから、PHC2の役割は損傷修復の効率性ではなく、適正性にあると考えた。この検証のために、タモキシフェンの一時添加(1-2日間)、その後無添加培地へと交換し、生存率を調査する。加えて、生存したコロニー由来細胞のAsiSI配列(まずは20箇所程度)の保全性をPCR増幅/シーケンスによって調べる。有意性を評価するために複数コロニーを解析する。DNA修復への分子貢献を調べるために、タモキシフェン添加後にポリコーム群おより修復因子のChIP解析をおこなう。PHC2局在領域とAsiSI切断部位との物理的距離の相関関係についても解析する。以上のアプローチから、DNA損傷応答におけるPHC2の役割を明らかにする。
2.ポリコーム群によるヒストンH2AXユビキチン化の役割解析 前年度の結果であるが、H2AX-K118/119R変異ES細胞の維持に不良があることは非常に興味深い表現型である。また当該のH2AXユビキチン化の意義を理解することは、DNA損傷応答ならびにエピジェネティック研究にとって重要な情報となる。最終年度に於いては、H2AX-K118/119R ES細胞のRNA-seqおよびポリコーム群のChIP-seqにより全体像を捉えたい。必要に応じて、H2AX-K118/119Rマウスより樹立した胎仔性繊維芽細胞を用いて、同様の実験を行うつもりである。
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