研究課題/領域番号 |
19K06697
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
乾 雅史 明治大学, 農学部, 専任准教授 (20643498)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 腱 / 発生 |
研究実績の概要 |
本研究は哺乳類発生の過程で、由来の異なる細胞群である骨格筋と腱の前駆細胞が全身で再現性良く結合を形成するメカニズムを解明することを目的としている。哺乳類の身体運度は400以上の骨格筋が収縮する力を腱を通じて骨格に伝えることで実現される。そのためにはそれぞれの骨格筋が適切な腱・骨と結合する必要があるが、四肢の腱・骨は側板中胚葉由来であり体節に由来する筋肉とは胚の中で最初に誘導される位置や時期が異なる。これらの由来の異なる組織が全身の数百カ所で正確に結合を形成する仕組みは未解明である。申請者は腱特異的に細胞死を誘導するScx-DTAマウスを作製したところ、骨格筋の配向パターンが異常となったため、腱から骨格筋への誘導が存在することが示唆された。本研究ではこの誘導について時期や対象となる細胞を同定すること、またその分子的実体を明らかにすることを目的に研究を進めている。本年度は発生の異なるステージでScx-DTAマウスをサンプリング、筋前駆細胞や筋繊維の配向を確認したところ、腱組織の欠損により筋前駆細胞ではなく筋繊維の配向が影響を受けること、その時期はE13.5以降であることを明らかとした。また、分子的実体を明らかとするためにノックアウトマウスを作成する系としてiGONAD法を導入し、複数遺伝子の同時ノックアウトについて条件を検討した。その結果同時に6つあるいは8つのgRNAを導入することで複数遺伝子のノックアウトが可能であることを見出した。次年度以降、この条件を利用して腱から筋へのシグナルを担う遺伝子・タンパク質の同定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず腱細胞が骨格筋細胞の配向に与える発生の時期および分化のステージの特定に取り組んだ。Scx-Cre TgマウスとRosa26-LSL-DTAマウスを掛け合わせ、E12.5, 13.5, 14.5の各ステージでサンプリングを行い、前肢の筋肉に対してmyogeninおよびmyh3のin situ hybridizationを行うことで筋前駆細胞および筋繊維の配向を可視化した。その結果、E12.5および13.5の筋前駆細胞の局在に大きな変化はなかったが、E13.5およびE14.5のmyh3の局在には差が見られたため、腱からの影響はE13.5の筋繊維の分化ステージからであることが示唆された。今後は後肢や横隔膜等他の部位や、他のマーカー遺伝子等についても検討を行う。次に腱から筋へのシグナル候補因子の機能解析についてはiGONAD法の導入と確立を進め、高効率ノックアウトの実験系を確立した。また、各遺伝子に2つあるいは3つのgRNAを用いるとノックアウト効率が高まること、同時に6つあるいは8つのgRNAを用いて複数遺伝子のノックアウトが可能であることを見出した。ただし8 つのgRNAを用いた際には胚の生存率が下がったため、今後最適な条件の決定が必要である。今後はファミリーを形成する遺伝子群についてノックアウトを行って筋配向への影響を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、前肢における腱-筋シグナルはE13.5以降に筋繊維に対して作用することが示唆された。次年度以降、後肢や体幹、横隔膜などの他の組織においても同様に検証を行い、組織特異性について検討する。また、iGONAD法を用いて複数遺伝子の同時ノックアウトが可能となった。これを用いて腱から筋へのシグナル因子候補群をノックアウトし、同定を目指す。具体的にはマイクロアレイ等の結果からScx-DTAマウスで発現が減少していることが分かっている分泌因子ファミリー(2つ)について、腱に発現することを確認した上で複数遺伝子のノックアウトを行い、筋配向に与える影響を検証する。また、その際ノックアウトにより腱組織の発生に変化があると、間接的な影響を観察することになるため、骨格筋と同時に腱組織の形態を観察できるよう、筋・腱を同時に観察できる二色でのin situ hybridizationの方法を確立する。また、腱から筋へのシグナルを担う因子は複数あることが想定されるため、並行して他の候補因子のリストアップも進める。具体的には腱に接している領域と腱から離れた領域の筋前駆細胞あるいは筋繊維の遺伝子発現を比較し、腱に隣接している筋細胞に特異的なシグナル伝達系を同定することを目指す。これらの研究を通じて胚発生において腱から筋へのシグナルについて分子的実体を始め解明が進むことが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
iGONAD法を用いた項目では研究計画・実験が順調に進み想定していた条件検討の実験回数を行わずに適切な条件を決めることができたこと、キャンペーンを利用するなどで試薬や実験器具を予定していたよりも低価格で購入することができたこと、レーザーマイクロダイセクションを用いた項目では想定していた実験回数を下回る実験を行ったこと、予定していた学会参加を一件取りやめたことなどにより当初使用する予定の額より使用額が減少した。次年度は今年度予定していた分も含めレーザーマイクロダイセクション等の実験を行い、また学会参加等を当初の予定より多く行い、より生産的に研究を進めていく。
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