本研究では骨格筋と腱の結合が再現性良く起こるメカニズムを解明することを目的に、腱細胞に細胞死を誘導するScx-DTAマウスを用いて研究を行なった。Scx-DTAマウスでは骨格筋のパターニングに異常が見られたことから、腱から骨格筋に誘導シグナルが分泌されていることが示唆された。本年度はScx-DTAマウスのRNAseq解析の結果、発現が変動していることが示された遺伝子群について胚内の発現パターンをin situ hybridizationによって検討した。その結果、腱で特異的に発現する遺伝子、骨格筋と腱の境界部で発現する遺伝子、腱と軟骨の境界部で発現する遺伝子など、複数の新規かつ興味深い発現パターンを示す遺伝子が同定された。今後これらの遺伝子の機能解析を進めることで、筋・腱・骨の相互作用や結合を介した形態形成のメカニズムが解明されることが期待される。また、Scx-DTAマウスの掛け合わせに用いているScxCre-L tgの影響を受ける細胞(Scx-lineage cell)の範囲を、ScxCre-L tg;Ai14を用いて検証したところ、腱靭帯細胞だけでなく軟骨・間葉・骨格筋の一部に及ぶことが示された。今後は異なるCre系統や、誘導型のCre系統などで同様の実験を行うことで、これらのScx-lineage cellの中で骨格筋のパターニングに影響を与える細胞の系譜やその発生の時期をより詳細に解明することが重要である。今後これらの研究を通じて、筋腱結合を形成する分子メカニズムの解明が進むと期待される。
|