研究課題/領域番号 |
19K06698
|
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
河崎 敏広 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (30770630)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 精子形成 / 精原細胞 / 減数分裂 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
精子形成では、精原細胞の増殖に伴う成熟と減数分裂のスタートは密接に関係するが、この過程を制御する機構は未解明である。本研究は、初期精原細胞が成熟できないmoto変異体、成熟を経ずに減数分裂を開始する異常を持つPM-035変異体を用いたトランスレイトーム解析(網羅的な翻訳活性解析)を通して、精原細胞の成熟・減数分裂開始を制御する分子基盤の確立、および制御因子の同定を行うものである。 本年度は、TRAP法(Translating Ribosome Affinity Purification)によるトランスレイトーム取得に必要となる、初期精原細胞でGFPタグを持つリボソームタンパク質を発現させるトランスジェニック(sox17:EGFP-rpl10a)系統の作成を引き続き行い、まず野生型におけるsox17:EGFP-rpl10a系統の確立を行った。昨年度末に得られた生殖細胞にトランスジーンが挿入された個体を野生型と掛け合わせ、ヘテロ個体を得ることができた。この個体の精巣を用いてEGFP蛍光を検出し、sox17:EGFP系統に近い発現パターンを示すことを確認した。そこで、抗GFP抗体ビーズを用いてTRAP法によるmRNA抽出の検討を行った。その結果、蛍光法を用いて検出可能なレベルでRNAを抽出することができ、sox17:EGFP-rpl10a系統を用いたTRAP法によるトランスレイトーム取得が可能であろうと考えている。現在、得られたRNA中に翻訳中のmRNAが濃縮されていることの確認、およびRNA-seqのためのライブラリー作製を行なっている。並行してヘテロトランスジェニック個体を用いて、moto変異体のヘテロ個体、およびPM-035変異体のヘテロ個体との掛け合わせを行って次世代を得ており、野生型のトランスレイトーム取得が終わり次第、これら変異体を用いた解析に移行する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度におけるsox17:EGFP-rpl10a系統の作製の遅れが生じたトラブルにより当初の計画より遅れが生じているが、(1)本年度でsox17:EGFP-rpl10a系統の確立とTRAP法によるRNA抽出に成功したこと、(2)sox17:EGFP-rpl10a系統のヘテロトランスジェニック個体を用いて、moto変異体のヘテロ個体、およびPM-035変異体のヘテロ個体との掛け合わせを行って次世代も得られていること、これら2点のことから今後の計画の進行に大きな問題はないと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に示す様に、現在野生型におけるsox17:EGFP-rpl10a系統を用いたトランスレイトームの取得を行なっている。本研究で用いる野生型、moto変異体、PM-035変異体の精巣のうち、野生型精巣は最も初期精原細胞が少ないため、トランスレイトーム取得の難易度が高い。一方で、野生型精巣には精母細胞などの分化が進行した細胞を豊富に含むため、得られたRNA-seqデータが初期精原細胞のトランスレイトームになっているか確認するのに適しており、現在行なっている野生型の解析は今後の変異体を用いた解析に重要であるため、慎重に解析を進めている。 今後に行う変異体を用いた解析では、これらの精巣にはsox17:EGFP-rpl10aを発現する初期精原細胞が極めて豊富であるため、野生型を用いて検討した精巣に対応した手法を用いればより容易にトランスレイトームを取得することが可能と見込まれる。その後、野生型、moto変異体、PM-035変異体における初期精原細胞のトランスレイトームの比較を通して、精原細胞の成熟・減数分裂開始を制御する分子基盤の確立、および制御因子の解析を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度における、sox17:EGFP-rpl10aトランスジェニック系統樹立の遅れにより、予定していたRNA-seqの受託解析を行えなかったため次年度使用額が生じた。令和3年度におけるRNA-seq解析でこの費用を使用する予定である。
|