研究課題/領域番号 |
19K06702
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小竹 敬久 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20334146)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | VTC1 / KJC1 / GDP-マンノース / ビタミンC / タンパク質分解制御 |
研究実績の概要 |
光エネルギーを利用して光合成を行っている植物は、時に強光にさらされ、細胞内が活性酸素種に曝される。過酸化水素などの活性酸素種は、DNAやタンパク質、生体膜の損傷を起こすため、植物はこれらをビタミンCなどにより消去している。ビタミンC量は明条件では多いが、暗条件では少なく、合成が明・暗条件で制御されている。 植物の主要なビタミンC合成経路であるD-Man/L-Gal経路は10反応で構成されるが、シロイヌナズナでは、VTC1によって触媒されるGDP-マンノース(GDP-Man)合成反応が律速反応であることが知られている。VTC1は暗条件でプロテアソームによる分解を受けており、この分解は、COP9シグナロソームの構成因子であるCSN5Bに導かれるが、光依存的な分解のメカニズムは不明である。そこで本研究では、VTC1相互作用因子であるKJC1の機能に着目して、VTC1分解が光によって制御される仕組みの解明を目指している。 2019年度は、ゲノミックのVTC1遺伝子にFLAG配列を導入したgFLAG-VTC1遺伝子導入植物の確立を行った。この人工遺伝子を導入したvtc1変異体ではビタミンCレベルやGDP-Man合成活性が回復することを確認し、野生型植物、kjc1変異体、kjc2変異体で、独立した形質転換植物を各4ライン以上作成した。kjc1変異体では、FLAG-VTC1の蓄積量が野生型植物の3%以下になっており、KJC1がVTC1の分解を抑制していることが支持された。今後は、明暗サイクルにおける、ビタミンCレベル、GDP-Man合成活性、VTC1タンパク質量の変化を解析する。また、VTC1と相互作用する因子の探索も進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、主に2つの実験で構成されている。このうち、FLAG-VTC1を利用したKJC1の機能解析は順調に実験が進んでおり、組換え植物の作出およびホモライン化ができている。また、ビタミンCレベルとGDP-Man合成活性はすでに測定系を確立できており、来年度以降は、明暗サイクルでの解析が実施できる状況にある。VTC1と相互作用する因子の探索と酵母ツーハイブリッド法による相互作用の解析は、実験系は構築できたが、確定的な実験結果が得られていない。この実験ではFLAG-VTC1を抗FLAG抗体でpull-downし、共沈したタンパク質を同定することを予定している。先行的に実施した実験では、共沈画分の中に、FLAG-VTC1があることがウェスタンブロッティングで確認され、SDS-PAGEではサイズ上でKJC1に近いタンパク質が観察されたが、MALDI-TOF/MS/MSによる同定がまだできていない。また、新規の因子は今のところ見つかっていない。量的な問題もあるので、今後は、大腸菌で作成した組換えの6xHis-VTC1を植物破砕液に混合するなどの実験系も検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
VTC1とKJC1はともに糖ヌクレオチドピロホスホリラーゼファミリーに属しており、互いに配列相同性をもったタンパク質である。これらは真核生物で高度に保存され、哺乳類では、それぞれ(GDP-Man pyrophosphorylase B)GMPPB、GMPPAとして知られている。最近、ヒトでGMPPA遺伝子に変異をもつとMan残基の過剰付加が起きるといった報告がなされている。これに基づくと、植物と動物ではKJC1/GMPPAの働きが逆になっており、大変興味深い。KJC1がVTC1にどのように働くのかを解明する鍵は、明暗によるVTC1の分解制御にある。この現象は動物では見られていないため、明暗制御におけるKJC1の機能は植物独自に獲得された可能性が高い。今後は、KJC1やVTC1の性状が明暗でどのように変化するかに焦点をあてて研究を進める必要がある。 多くの植物ホルモンは、転写抑制因子のユビキチン化とそれに続くプロテアソームによる分解を起こすことで、特異的な遺伝子発現を誘導する。分解による制御は転写制御因子だけではなく代謝経路上の重要な酵素も受けている。本研究で標的にしているVTC1が合成するGDP-Manは、ビタミンCだけではなく、細胞壁のグルコマンナンや糖タンパク質のN-結合糖鎖、GIPCのMan残基の合成にも使われる生理的に重要な物質であり、VTC1の活性が遺伝子発現ではなくタンパク質レベルで制御されていることは注目すべき点である。また、ビタミンCの合成は明暗による制御を受けてしかるべきだが、他の物質は恒常的に合成されているはずで、VTC1分解のアクセル(CSN5B)とブレーキ(KJC1)の関係は、部位や環境、エイジで変化しているかもしれない。そのため、解析対象とする部位(若い本葉)や育成条件(明暗条件、温度、培地など)を選んで実験を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で行う実験のうち、VTC1の相互作用因子の探索と酵母ツーハイブリッド法による相互作用の確認では、まだ新規の相互作用因子が得られていない。そのため、酵母ツーハイブリッド法による相互作用の確認は次年度以降に先送りする必要が生じた。相互作用因子の探索では、組換え植物内在性のFLAG-VTC1の代わりに、大腸菌で発現した6xHis-VTC1を使用する実験を代替実験として検討している。次年度使用額に計上した予算の大半は、次年度以降にこの代替実験を実施するために必要な試薬・消耗品の購入に充てる予定である。
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