陸上植物ではグルコースを初発物質としてビタミンCが合成される。複数のビタミンC合成経路が提案されているが、主要な経路はD-マンノース(D-Man)/L-ガラクトース(L-Gal)経路と呼ばれるものであり、糖ヌクレオチドであるGDP-ManやGDP-L-Gaを経て、L-アスコルビン酸(ビタミンC)が合成される。この経路の律速反応の一つは、Man 1-リン酸からのGDP-Man合成であり、VTC1という酵素によって触媒される。本研究では、このVTC1の活性がKJC1という別のタンパク質によって制御されることに着目し、陸上植物のビタミン合成制御機構の一端を解明することを目指している。 これまで研究で、KJC1タンパク質そのものは活性は持たないが、複合体を形成してVTC1の活性を高めることがわかっていた。また2020年度までの研究で、KJC1は上記に加えて植物生体内でVTC1の分解を抑制することで、VTC1の活性を高める可能性も示唆されていた。そこで、FLAG配列を融合したVTC1(FLAG-VTC1)が発現するシロイヌナズナを作成して、明暗などの環境条件によるVTC1タンパク質の蓄積量の変化を調べた。野生型のシロイヌナズナと比べて、FLAG-VTC1の蓄積はkjc1変異体で1割以下に低下しており、KJC1がVTC1の分解を抑制していることがわかった。また、植物生体内でのVTC1の存在様式を調べるために、シロイヌナズナ芽生えの抽出液をゲルろ過クロマトグラフィーにかけ、各画分のGDP-Man合成活性を調べたところ、高分子画分に活性があり、VTC1モノマーに相当する画分には活性がみられなかった。このことは、植物生体内ではVTC1はKJC1とサイズの大きな複合体を形成しており、モノマーのVTC1は速やかに分解されるか活性を持たないことを示唆している。
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