研究課題
シアノバクテリアは酸素発生型の光合成を行う原核生物であり、光化学系反応中心に光エネルギーを供給するアンテナとしてフィコビリソームを持つ。近年のゲノム解析により、フィコビリソームの構造機能がシアノバクテリアの間で大きく多様化していることが示唆されている。本研究は、緑・赤色光によって引き起こされるフィコビリソームの構造および吸収波長の制御(光色順化、Chromatic Acclimation: CA)の多様性の全容を明らかにすることを目的とする。今年度は、緑・赤色光応答型の光色順化の多型として知られる8種類(CA0、 CA2、CA3、CA7、および、それらの組み合わせであるCA2/0、CA3/0、CA3/2/0、CA7/0)ののうち、CA2/0、3/0およびCA3/2/0の光色順化を示すシアノバクテリアに着目し、RNA-Seqおよびフィコビリソームの単離精製解析を行った。一部の単離フィコビリソームについては、クライオ電子顕微鏡を用いた解析を実施した。CA3/0株については、通常の方法ではフィコビリソームを抽出できなかったが、適切な細胞の前処理を行うことで精製に成功した。Pordmidium sp. NIES-4144については細胞の無菌化と全ゲノム解析を行い、NIESカルチャーコレクションに寄託した。これらの解析と並行し、フィコビリソームの発色団のNMRや振動分光による構造解析のため、15Nおよび13Cでビリン発色団を標識する手法を確立した。また、光色順化の光受容体RcaEの赤色光吸収型の高分解能結晶構造解析およびNMR解析に成功し、これまでに知られていないユニークな構造を発見した。
2: おおむね順調に進展している
代表的な光色順化能を持つシアノバクテリア株のトランスクリプトーム解析やフィコビリソームの単離精製を行い、一部の株について安定なフィコビリソームの単離に成功し、クライオ電子顕微鏡の解析にまで持っていくことができた。また、光色順化の光色感知機構についても大きな進展が見られた。
クライオ電子顕微鏡解析によって得られたフィコビリソームの構造に基づき、ゲノム情報を精査し、シアノバクテリア門全体における光色順化の多様性を理解する。引き続き、NMR、振動分光、X線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡を専門とする研究者との共同研究を積極的に推進していく。また、得られた結果を論文にまとめ発表していく予定である。
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