研究課題
植物はストレスを受けると、ストレス環境下で生存を維持するために積極的に細胞周期を停止させて自身の成長を抑制する。最近の我々の研究により、NAC型転写因子ANAC044とANAC085が、ストレスに応答したG2期での細胞周期停止に重要な役割を果たしていることを見出している。本研究では、細胞周期停止の分子メカニズムを明らかにすることで、ストレスに応答した植物の成長抑制機構の理解を目指す。本年度は、ANAC044もしくはANAC085が単独で細胞周期を停止させることができるか調べるために、ANAC044もしくはANAC085の過剰発現体を作成して、表現型解析を行なった。その結果、通常の生育条件下において、ANAC044過剰発現体、ANAC085過剰発現体は、野生型植物と同様に成長を続け、細胞周期停止は起こらなかった。一方、DNA損傷下では、それぞれの過剰発現体は、野生型植物と比べて、DNA損傷ストレスに対して感受性となり、早期な細胞周期停止が引き起こされることを明らかにした。このことから、ANAC044もしくはANAC085による細胞周期停止には、DNA損傷ストレスシグナルが必要であることが示唆された。また、ANAC044、ANAC085の下流遺伝子を同定するために、野生型植物およびanac044 anac085二重変異体にDNA損傷処理を行い、RNA-seq解析によりANAC044、ANAC085依存的に発現誘導もしくは発現抑制される遺伝子を同定した。その結果、発現誘導される遺伝子群にはストレス応答に関する因子が、発現抑制される遺伝子群には細胞周期制御に関わる因子が多く含まれていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
DNA損傷によるANAC044、ANAC085を介した細胞周期停止には、DNA損傷シグナルが必要であることを新しく見出したことから、現在までおおむね順調に進展している。また、ANAC044、ANAC085の下流因子が明らかになったことも大きな成果と言える。
RNA-seq解析によりANAC044、ANAC085の下流因子を同定したことから、今後はそれら因子の機能解析を進めることで、細胞周期停止における役割を明らかにする。
コロナ禍の影響による出張の延期、物品の欠品が発生したため予定より支出額が少なくなった。代わりに、令和3年度の出張旅費、消耗品費に未使用分を充当する予定である。
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