研究課題/領域番号 |
19K06711
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
湯川 泰 名古屋市立大学, 大学院システム自然科学研究科, 教授 (70381902)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 長鎖非コードRNA / シロイヌナズナ / RNAポリメラーゼIII / 感染防御 / ストレス応答 / RNA結合タンパク質 / 種子形成 / サリチル酸 |
研究実績の概要 |
細胞中には多様な非コード RNA (ncRNA) が存在し、200 塩基を超えるものは長鎖非コード RNA (long ncRNA, lncRNA) と呼ばれ、多くの機能は未解明のままである。申請者はRNAポリメラーゼ III による転写に着目して、アブラナ科植物のシロイヌナズナから興味深いAtR8 lncRNAを発見した。RNAポリメラーゼ III はtRNAのようなハウスキーピング遺伝子を転写するとされるが、AtR8 lncRNA は低酸素とサリチル酸(植物ホルモン)に応答し、根に多量に蓄積する従来の概念に沿わない特徴があった。さらにAtR8 lncRNA遺伝子を欠損した変異体を用いたマイクロアレイ解析では、AtR8 lncRNAの感染防御およびストレス応答への関連が強く示された。 そこで、3つの目的を設定して研究を進めた。【目的1】AtR8 lncRNA結合タンパク質の同定、【目的2】AtR8 lncRNAの種子形成に関わる機能解析、【目的3】AtR8 lncRNA遺伝子のサリチル酸応答メカニズムの解明、である。 【目的1】は【目的2】に関する論文投稿作業に存外の時間を取られ着手することができなかったが、【目的2】および【目的3】に関して着実な研究を進めることができた。 【目的2】に関して、AtR8 lncRNAが未熟種子にも多量に蓄積することを見出し、in situ ハイブリダイゼーション法で未熟種子における局在を明らかしにした。 【目的3】に関して、感染防御に関わりの深いWRKY転写因子遺伝子の発現がAtR8 lncRNA遺伝子発現と明白な逆相関を示したため、その制御機構について研究を進めた。In vitro転写系を用いた解析の結果、サリチリ酸応答シス配列であるas-1を介した制御が行われていることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文の投稿のための追加実験に時間を要し、当初予定していた結合タンパク質同定作業に着手することができなかった。その代わり、AtR8 lncRNAと根の機能に関して研究を進めることができた。低濃度のサリチル酸存在下では、シロイヌナズナ発芽種子の根は伸長が著しく阻害される。AtR8 遺伝子の変異体では、その伸長阻害がより顕著になり、逆にWRKY53およびWRKY70遺伝子の変異体では伸長阻害が緩和された。野性株および変異体の根端分裂組織には外見的に大きな違いは認められなかったが、根端分裂組織の幹細胞維持に関わるSHR (SHort Root) 遺伝子がAtR8 遺伝子の変異体で有意に発現量が高まっていた。また、AtR8遺伝子とWRKY53/WRKY70遺伝子発現の発芽時における時間変化を詳細に調べた。これらのデータをまとめた論文はオープンアクセスのNoncoding RNA誌に2020年2月付で発表できた。 また、AtR8 lncRNAは未熟種子にも多量に蓄積することを明らかにし、in situハイブリダイゼーションを試みた。その結果、種子の鞘である長角果に広く存在することを明らかにした。配偶子形成に関して、雌しべ(柱頭)の活性酸素分子種 (ROS) 蓄積が高いことが知られているため、AtR8 lncRNAとの共局在を調べたが、ROSとAtR8 lncRNAとの局在の一致は見られなかった。 また、AtR8遺伝子およびWRKY遺伝子のサリチル酸応答発現を解析する目的で、それぞれの遺伝子上流に位置するサリチル酸応答配列as-1を変異した遺伝子を作成し、タバコのin vitro転写系を使って発現解析を行った。その結果、as-1配列依存的な転写制御がみられたため、研究をさらに進めている。
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今後の研究の推進方策 |
計画初年度からの実施を予定していたRNA結合タンパク質の同定作業に着手する。この研究により大きな発見がもたらされると期待できるため、残り2年間の中心的な研究目的として進める。 AtR8 lncRNAの配偶子形成に関わる研究については、これまでに得られた成果をまとめ論文発表の準備を進める。 AtR8 lncRNA遺伝子のサリチル酸応答機構の解明については、in vitro解析を完了させ、引き続き植物培養細胞を使ったin vivo解析によって検証を進め、研究成果を論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿に予定しない追加実験を行った上、実験を担当していた大学院生が学位論文をまとめる修学最終年度であったため、当初予定していたRNA結合タンパク質同定に着手できなかった。経費の多くをタンパク質精製に計上しており、さらに新型コロナウイルスの影響で学会参加ができず、繰り越しが生じた。 繰り越額は次年度分と合わせ、RNA結合タンパク質の同定に使用する。
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