研究課題/領域番号 |
19K06713
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
坂田 洋一 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (50277240)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 浸透圧応答 / アブシジン酸 / B-RAF / B-MAPKKK / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者の研究グループがヒメツリガネゴケを用いた研究から初めて同定したSnRK2上流キナーゼ(ARK)を中心とした浸透圧によるSnRK2活性化機構の分子基盤をシロイヌナズナにおいて解明することを目的とした。2020年度の主な研究成果は以下のとおりである。 1)シロイヌナズナAtARK TKOとABA合成欠損株aba2-1変異株の掛け合わせを行なった多重変異株atark/aba2において、SnRK2の活性化レベルが親株と比較して低下していたことから、SubclassⅢ SnRK2の活性化においてARKはABA合成経路とは独立した経路でも働くことが示唆された。 2)AtARKと同じくB3 MAPKKKに属するエチレンシグナル伝達系の負の制御因子CTR1はバクテリア二成分制御系のヒスチジンキナーゼに相同性を有するエチレン受容体と物理的に相互作用して機能が制御される例が報告されていることから、ARKの活性制御を行う上流因子としてエチレン受容型ヒスチジンキナーゼに着目し、酵母ツーハイブリッド法を用いて総当たり的に解析を行なったところ、AtARK3とETR1およびERS1との相互作用が確認された。このことから、AtARKの活性制御にヒスチジンキナーゼが関与していることが示唆された。 3)subclass I SnRK2はABA非依存的に浸透圧により活性化される。近年の研究報告で、subclassIの活性化にはB4 MAPKKKが関与していることが示された。そこで、AtARKがsubclass I SnRK2の活性化に関わるかを、AtARK TKOを用いてゲル内リン酸化実験により解析したところ、AtARKは低浸透圧条件(300 mMマンニトール)においてsubclass I SnRK2の活性に重要な役割を果たしている事が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、2020年度に予定していた実験は大きく遅れることになったが、この状況の中で重要度の高い実験に絞って推進を行なった。その結果、昨年度の報告書において打ち出した今後の研究推進方策に挙げた重要事項については結果を得る事ができた。今年度に得られた結果は最終年度に向けて実験課題の方向性を決めるに十分な成果であったことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に向けて以下の実験課題に取り組んで行く。 1)AtARK3とETR1およびERS1の相互作用が酵母ツーハイブリッドで確認できたことから、in vivoでの相互作用をたばこの葉を用いたBiFC法により解析を行う。2)酵母ツーハイブリッドシステムを用いて、AtARK3とETR1の相互作用に必要なそれぞれの領域を解析する。3)AtARKノックアウト株におけるエチレン応答性を調査し、ABA/浸透圧シグナルとエチレンシグナルのクロストークがAtARKを介して行われているかを検証する。4)これまで、AtARKとその基質と考えられるSnRK2の酵母ツーハイブリッドにおける相互作用は検出できていない。これは一般にB-Rafがキナーゼドメイン内の相互作用を介して不活性化状態にあり、その活性化には活性ループ内のセリンもしくはスレオニン残基のリン酸化が必要である。そこで、AtARKの活性化ループ内のセリンをアスパラギン酸に置換した擬似リン酸化AtARKを用いてSnRK2との相互作用を解析する。5)AtARKの活性化が上流キナーゼによるものなのか、あるいは自己リン酸化によるものなのかを明らかにするため、AtARK TKO株にキナーゼデッドのAtARKを再導入し、相補可能か解析を行う。 6)AtARKが作物の乾燥耐性を向上させる遺伝子資源として有効化を明らかにするため、AtARKおよび擬似リン酸化AtARKを過剰発現させたシロイヌナズナの乾燥対性能の評価を実施する。 以上の解析を通じて、植物の乾燥耐性能におけるAtARKの作用機序および重要性の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度前期において大学のコロナ禍対応のため、4-7月は研究室における必見を行う事ができず、本来実施予定であった実験の一部が遂行不能になったため。それらの実験は2021年度の研究計画に組み込んでいる。
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