本研究計画は、オジギソウの高速運動において運動器官である葉枕内でどのような遺伝子が機能しているのかを明らかにすることを目指す。これまでの研究により、機械刺激受容チャネルMSL10、グルタミン酸受容体様チャネルGLR3、および転写因子であるASLBD1の変異体がおじぎ運動に異常を示すことを見出した。本年度は、msl10およびglr3変異体に野生型のcDNA配列を導入するレスキュー実験を行った。その結果、どちらの変異体においても表現型の回復が確認でき、これらの遺伝子が運動における異常の原因遺伝子であることが裏付けられた。また、in situハイブリダイゼーションによる遺伝子発現部位の検出を行った結果、おじぎ運動において大きく動く主葉枕と小葉枕では、MSL10、GLR3ともに葉枕内の片側(収縮側)に広く発現していることが確認できた。一方、あまり動かない副葉枕では、遺伝子発現が葉枕片側の非常に狭い領域のみに検出され、葉枕の運動性の違いは運動関連遺伝子の発現部位の大小に起因すると推測された。aslbd1変異体に関しては、昨年度に行った野生型とのトランスクリプトーム比較データについて、より詳細な解析を行った。その結果、aslbd1変異体において発現低下が認められる遺伝子として、MSL10、GLR3、ASLBD1自身に加え、OSCAファミリーに属する機械刺激受容チャネル、PRXファミリーに属する細胞外ペルオキシダーゼ、全く機能未知の膜タンパク質等、いくつかの遺伝子が検出された。また、ASLBD1遺伝子はセンス鎖に加えてアンチセンス鎖の転写も行われていることがトランスクリプトーム解析から明らかになり、アンチセンス鎖の転写を介したASLBD1の遺伝子発現制御が運動遺伝子の発現制御に関与している可能性が示唆された。
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