研究課題/領域番号 |
19K06719
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
西村 泰介 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (10378581)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / エピジェネティクス / 表現型可塑性 / 細胞リプログラミング / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
植物における表現型可塑性に、どの遺伝子におけるDNAメチル化が作用するかを明らかにするため、ゲノム上のDNAメチル化パターンが部分的に野生型と異なっているシロイヌナズナ系統群から単離された、再分化効率が上昇するA471系統、葉の形態に異常をきたすe16系統、及び病原菌抵抗性を示すMH011系統を用いて解析を行った。 A471系統において、前年度までに有力な候補遺伝子を1番染色体上に同定していたが、当該年度はA471系統背景でCRISPR/Cas9によるこの候補遺伝子のノックアウト系統を確立し、表現型の観察を行うことを試みた。しかしながら、この遺伝子をノックアウトした植物は不稔となることが明らかになり、ノックアウト系統を確立する事はできなかったため、CRISPR/Cas9発現系統における体細胞において遺伝子破壊された細胞での表現型を観察する方法に変更し、その準備を進めた。また前年度、この候補遺伝子においてA471系統と同様のメチル化バターンを示す近交系統を見出したが、その中にはA471系統と同じくシュート再生効率が上昇する近交系統もあることを明らかにした。 e16系統でも連鎖解析による1番染色体上の原因遺伝子の同定をさらに進め、1.3Mbの領域の約400個の遺伝子まで原因遺伝子を絞り込み、その中には野生型と比べてメチル化が変化し、発現が変化する遺伝子もいくつか含まれていることが明らかになった。 MH011系統では、病原菌(Pseudomonas syringae)の感染によって発現が誘導され、抵抗性に作用する複数の遺伝子の発現解析を行なった。その結果、感染前は野生型系統と発現量は変化しなかったが、感染後に発現解析を行うと多くの病原抵抗性遺伝子の発現が有意に上昇していた。今後はこれらの遺伝子発現の変化を指標に遺伝解析を進めることが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
A471系統の原因遺伝子の同定において、1番染色体上の最有力候補遺伝子のノックアウト植物が不稔性を示すという予期していなかった結果になり、同定のためのアプローチの変更を余儀なくされた。当該年度に原因遺伝子を確定するという計画は次年度に持ち越された。しかしながらe16系統は原因遺伝子の絞り込みが進んでおり、MH011系統も遺伝子の発現レベルで表現型が確認できるようになったことから、これらの系統の解析は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
A471系統では有力な原因候補遺伝子のノックアウト系統の作出が難しいことが判明したため、CRISPR/Cas9を発現する体細胞からカルス化を誘導し、発現していない体細胞由来のカルスと比較することで、この遺伝子がA471系統におけるシュート再生効率に作用するかを明らかにし、原因遺伝子であることを示す。またこの遺伝子におけるメチル化が変化している近交系統での遺伝子発現やクロマチン修飾を解析することで、シュート再生効率への作用を明らかにする。また3番染色体および5番染色体上に座乗すると推定される原因遺伝子の同定も進める。 e16系統でも1番染色体に加えて4番染色体上の原因遺伝子の同定も進め、候補遺伝子の発現解析も行う。 MH011系統では病原菌抵抗性遺伝子の発現が有意に変化することが明らかになったので、これを指標に遺伝解析を進め、原因遺伝子座数の推定や連鎖解析による座乗染色体の同定などを進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究協力者(筑波大学)から実験手法の指導を受けるとともに、研究成果についての議論を行うために複数回の出張を計画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、出張できなかった。また学会での発表も計画していたが、同様の理由で参加を取りやめて次年度に発表を見送った。このため今年度計上していた旅費およびこれらの研究協力者からの実験手法の指導に関連する消耗品の支出がなかった。次年度はこれらを実験消耗品やデータ解析のために使用する。
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