研究課題
アラントインは典型的なウレイド化合物であり,長らく窒素栄養の転流体や貯蔵体として機能すると考えられてきたが,最近,植物のストレス応答を活性化する作用が見出された。本研究ではアラントインがどのような機序でそのような作用を発揮するのかを解明することを目的としている。具体的にはシロイヌナズナを植物材料として,(1)アラントインによって活性化される標的遺伝子の同定,(2)分子構造と生理作用の相関および因果関係,さらに(3)作用を媒介する因子の同定などを目指している。これらを踏まえ,今年度は以下の研究成果を得た。(1)昨年度と同様にアラントインに応答する遺伝子の同定を進めた。また,アラントイン合成酵素の遺伝子破壊によりアラントインを蓄積できない変異株(as変異株)を作出し,これまでに同定したアラントインに活性化される遺伝子群の発現を調査することを試みた。しかし予想に反し,as変異株はアラントイン生成能力を保持することが判明し,シロイヌナズナには未同定のアラントイン生合成経路が存在することが示された。(2)アラントインの直下の代謝産物であり,ヒダントイン基が開環したアラントイン酸がストレス応答の活性化作用を持たないことに着目し,ヒダントインがアラントインと同様なストレス応答の活性化作用を有する可能性を検証した。その結果,この閉環構造がアラントインの作用に重要な役割を担うことを示唆する結果を得た。(3)アラントインの作用を介在すると考えられる因子の同定を目的に,ストレス応答を指標としてアラントインに応答しない突然変異体の選抜を実施したが,有力な候補株を得るには至らなかった。
3: やや遅れている
コロナ禍の影響による人的および時間的な制約のため,当初の予定通り十分に研究を展開することができなかった(特に項目3)。しかしその一方で,未知のアラントイン生合成経路の存在を示す予期せぬ発見や,アラントインの作用の発現の鍵となる分子構造にかかる重要な示唆を得ることができた。したがって,表記区分の進捗状況と評価した。
(1)についてはさらなる標的遺伝子同定を進めるとともに,これと関連して当初計画にはなかったものの,本研究と密接に関わる重要な課題であるためアラントインの未知生合成酵素の同定を進める。(2)では閉環構造に着眼した構造-機能相関解析を進める。また,独自の発見であるストレスやアラントイン処理に応答した迅速な小胞体の動態変化(Han et al., 2020, JXB)を指標とした蛍光顕微鏡観察を行うことで,光学活性と生理作用の関係を明らかにする。(3)についてはさらに変異株の選抜を進める。
コロナ禍の影響による人的および時間的な制約のため,当初の予定通り十分に研究を展開することができなかった。未使用額は,昨年度に十分実施できなかった実験や解析に係る費用に充てる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
アグリバイオ
巻: 53 ページ: 116-123
Genes to Cells
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The Plant Journal
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https://www.hiroshima-u.ac.jp/ilife/news/57346