先端成長は細胞の一部分のみが伸長する成長様式で極性成長の典型例である。本研究では、ヒメツリガネゴケ原糸体およびスサビノリ糸状体の先端成長をモデル系に用いて、先端成長の方向性制御に作用する微小管組織化の分子機構の全体像を明らかにする。 (1)ヒメツリガネゴケ微小管生成因子オーグミント8(AUG8)の4重変異体は先端成長の伸長速度が低下し、伸長の方向性が異常になる。シロイヌナズナのAUG8は4グループ(EDE1、AT2G20815、AUG8、SCO3)存在するが、EDE1グループ、AT2G20815グループの遺伝子はヒメツリガネゴケ4重変異体の先端成長の表現型を部分的に相補した。一方、AUG8グループ、SCO3グループの遺伝子は4重変異体の表現型を相補しなかった。従って、シロイヌナズナのEDE1グループ、AT2G20815グループはヒメツリガネゴケAUG8と先端成長に対する機能が保存されていることがわかった。AIR9では、PpAIR9aの過剰発現により原糸体の先端成長の速度が低下することから、PpAIR9aは先端成長の伸長速度を制御することが示唆された。 (2)野生型の原糸体とは逆の重力屈性を示すヒメツリガネゴケ変異体gtr2、3の遺伝解析を行い、この表現型が後代に遺伝することを確認した。さらに、gtr2、gtr3ゲノムのリシーケンスを行い、原因遺伝子としてgtr2では13個、gtr3では16個の候補遺伝子を選抜した。gtr2変異体では、キネシンコードするKCHb遺伝子に変異が検出されており、先端成長の表現型から、原因遺伝子である可能性が高いと考えられた。 (3)スサビノリ糸状体の先端成長の解析系として、3D-ライブイメージング系を確立した。微小管破壊剤を用いたライブイメージングにより、スサビノリ糸状体の先端成長の方向性制御には微小管が必須であることがわかった。
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