研究課題/領域番号 |
19K06733
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
藤田 浩徳 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, アストロバイオロジーセンター, 助教 (10552979)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 数理モデル解析 / オーキシン極性輸送 / 葉脈パターン形成 / 自己組織化 / Auxin-PIN1相互制御 |
研究実績の概要 |
自己組織的パターンの形成機構、およびその形態的多様性の生成機構の解明は、多細胞生物の発生における主要な研究テーマの一つである。本研究では、植物における自己組織的パターンの代表的な例であり、著しい多様性を示す葉脈(維管束)を取り上げ、数理的解析手法を用いることにより、以下の2点の研究課題について明らかにすることを目的としている。 (1) 維管束(polar transport)パターン形成は、植物ホルモンauxinとその排出輸送体PIN1との相互制御により一般的に説明されている。その一方で、PIN1に依存しない維管束形成が報告されているものの、その形成機構は未解明のままである。そこで、PIN1以外のauxin輸送体(PGP)を考慮することにより、その形成機構を解明する。 (2) auxinとPIN1の相互制御により、polar transportとauxin maximaの2種類の自己組織的パターンが形成される。polar transportモデルにより、多様な葉脈パターンが再現できるものの、網状脈(ループ状構造)の再現は困難である。そこで、2種類のモデルを融合することにより、「葉脈パターンの多様性生成機構」を解明する。 研究課題(1)に関して、前年度の研究により(A)「auxin濃度依存的なPGP活性制御」のみではpolar transportは形成が困難であることが示された。それを踏まえ、本年度では(B)「auxin濃度依存的なPGP局在制御」の弱い条件下において、制御(A)を考慮することにより、polar transportが創発されてくることを示した。研究課題(2)に関しては、polar transportとauxin maximaの双方を融合した、簡潔な数理モデルを構築し、それに基づいた数値計算が正常に機能することを確認し、本格的な解析の基盤を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は大きく2つの研究課題、(1)「PIN1非依存的な維管束形成」および(2)「葉脈パターンの多様性生成機構」を挙げており、本年度は研究課題(1)の解析を完了し、また研究課題(2)に関して基本的な数理モデルの枠組みを構築した。 研究課題(1):前年度までの結果から、PIN1非依存的な維管束(auxin transport)形成が、(A)「auxin濃度依存的なPGP活性制御」だけでは説明できないことが示唆された。そこで、(B)「auxin濃度依存的なPGP局在制御」を合わせて解析した。ただし制御(B)が強い条件では、PIN1の場合の様にこの制御のみでauxin transportを再現できるので、ここではそれが形成できない弱い条件下において解析を行った。その結果、制御(B)のみではPGPが細胞膜にほぼ一様に分布し、従ってauxin transportが形成できない条件において、そこに制御(A)を考慮することにより極性輸送が創発されることが示された。この結果は、PGPの細胞膜分布に明確な局在が見られなかったとしても、auxin transportが形成されうることを示している。 研究課題(2):auxinとその輸送体PIN1との相互制御により2種類の異なるパターン、auxin transportとauxin maximaが形成される。これら2種類のパターン形成の融合モデルを構築することにより、多様な葉序パターン形成を再現することを目的としている。本年度は、その準備段階として基本となる数理モデルの構築を行なった。構築する数理モデルは、パラメータ数が多くなることが考えられるので、できる限り単純化した数理モデルを作成し、数値計算解析が遂行可能であることを確認した。これにより、次年度における数理モデル解析の基盤が構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究課題(2)「auxin-PIN1相互作用による2種類の自己組織化モデル(polar transportとauxin maxima)の融合による葉脈パターンの多様性生成機構」に集中して研究を進める。この融合モデルは、パラメータ数も多く、また制御の細かい設定が求められる数値解析になることが予想されるので、可能な限りモデルを単純化した上で、数値シミュレーションによりパラメータの網羅的な検索を行う計画である。また、polar transportとauxin maximaの融合モデルに関しては、葉原基からの維管束形成という限定的な条件において再現が行われている [PLoS Comput. Biol. (2014) 10, e1003447]。そこで、この解析を参考にしつつ研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度(2020年度)において、コロナ禍により学会や研究会等の出張が基本的に無くなり、その結果主要な使用目的として想定していた旅費経費の使用がなされなかった。それに加えて、当該年度の英語論文の執筆がなかったため、英文校閲費用が当初予定に比べ大幅に抑えられたことにより、次年度使用額が生じた。次年度(2021年度)においては、数値計算および数値解析を網羅的に遂行することを計画しており、それに伴い研究支援およびデータ整理等を補佐していただく技術支援員の雇用を計画している。
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