多細胞動物の一生において、体を形づくる発生過程には未だ説明しきれていない分子メカニズムがたくさん存在する。例えば、単純な細胞シートが陥入を経て原腸を作る過程の分子メカニズムを完全に説明するには情報のかなりが不足している。そこで、本研究では人生の中で最も重要であるとさえ言われる原腸陥入過程 において、トロポニンが非筋肉細胞で担う働きを明らかにすることを目的とする。トロポニンはカルシウムイオンを受容し筋収縮スイッチを担うタンパク質であ り、骨格筋でのみ機能するとされている。 今年度は昨年度同様トロポニンがアクチンやミオシンなどの筋肉タンパクと複合体を作り機能しているのかどうかを生化学的に示すため、in vitroアッセイを試みた。その結果、筋収縮を阻害する因子である可能性が高いことを示す傾向は見られたものの、科学的に有意のある結果を得ることができなかった。よって、in vitroアッセイはこれ以上追求せず、これまでの成果をひとまずまとめて論文化し受理された。その過程で、トロポニンの機能阻害を再度行い、原腸が陥入できないという高い再現性を得ることができたため、生物におけるトロポニンの機能としては十分証明できたと思われる。加えて、ウニのトロポニンに対する特異抗体を用いて幼生や胚を染色したところ、原腸陥入や消化管の筋肉意外にも口蓋や口側上皮にトロポニンが存在することが示されたため、今後は表皮性の組織におけるトロポニンの機能を明らかにするプロジェクトをスタートさせる価値があると判断された。
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