研究課題
リソソーム(液胞)は細胞内分解を、ミトコンドリアは細胞内のATP生産を担うオルガネラである。これらのオルガネラの物理的な相互作用は、脂質輸送(リソソームからミトコンドリア)、分裂(ミトコンドリア)といった現象に関わることが近年明らかとなってきている。私たちは、最もシンプルな真核生物の一つである原始紅藻Cyanidioschyzon merolae(通称シゾン)において細胞分裂期特異的にリソソームがミトコンドリアに密着することを見出した。シゾンはオルガネラを一つずつしか含まず、細胞分裂とそれに伴うオルガネラの分裂・増殖を明暗周期により同調できることから、このリソソームとミトコンドリアの物理的な相互作用も同調できる。また、ゲノムが解読されており(16.5 Mb)、形質転換法も確立している。本研究では、シゾンをモデルにリソソームとミトコンドリアの物理的相互作用のしくみやその生理的な機能を明らかにすることを目的としている。2019年度は、以下を行った。1. リソソームとミトコンドリアの相互作用に関わる可能性のあるEndosormal sorting complex required for transport (ESCRT)を構成するタンパク質について局在を明らかにした。2. シゾンは細胞内分解に必要なオートファジー関連遺伝子を持たない。このため、物理的な相互作用を介して、ミトコンドリアの一部がリソソームに直接的に取り込まれ、分解される可能性がある。また、シゾンを含め、下等真核生物ではリソソーム、液胞、acidcalcisomeと呼ばれる液胞様のオルガネラにリン酸の直鎖上ポリマーであるポリリン酸が蓄積してする例が多く、このポリリン酸がミトコンドリアに作用する可能性も考えられる。このため本研究ではリソソームの分解酵素やポリリン酸合成酵素の破壊株を作成して表現型解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
実験計画に従い、リソソームとミトコンドリアの相互作用に関わる可能性のあるESCRTタンパク質について局在を解析した。これらの結果を含む論文が国際誌に受理された。また計画にしたがって、リソソームとミトコンドリアの相互作用の持つ生理的な意義を解明するために、リソソームの分解酵素やポリリン酸合成酵素の欠損株を作成し、表現型の解析を進めた。ポリリン酸合成酵素欠損株を用いた成果の一部は国内の学会においてポスター発表を行った。以上のように、研究は順調に進捗している。
以前の研究により、ESCRTのタンパク質の一つVIG1 (Vacuole Inheritance Gene 1)が、シゾンにおいてリソソームとミトコンドリアの相互作用に関わることが示されていた。通常ESCRTタンパク質は他のESCRTタンパク質とのコンプレックスとしてはたらくことから、これまでにVIG1以外のESCRTタンパク質の局在を明らかにしてきた。しかしながら、これらの結果はESCRTとしてリソソームとミトコンドリアの相互作用への関与することを示唆するものではなく、より詳細な解析が必要である。真核細胞におけるリソソーム(液胞)とミトコンドリアの相互作用には、酵母で知られる仕組みもあるが、シゾンには酵母で関与が知られるタンパク質のホモログが存在しないことから、複数のメカニズムがあると考えられてきた。その一方で、シゾンにも保存されたRAB7がリソソームとミトコンドリアの相互作用に関与することが近年、動物細胞で示された。リソソームーミトコンドリア相互作用において、RAB7がシゾンから動物までに保存された役割を果たす可能性もあることから、今後はVIG1とRAB7を手がかりにリソソームーミトコンドリア相互作用に関わるタンパク質の同定し、仕組みの解明を進めたい。また、リソソームの分解酵素やポリリン酸合成酵素の欠損株については、引き続き表現型の解析を進める予定である。特にこれらがミトコンドリアに与える影響について、電子顕微鏡解析や、ATPの定量など生化学的な解析を行っていく予定である。分解酵素については、リソソームのプロテオーム解析で複数同定しているため、新規の欠損株や二重変異株など、新たな株の作成も継続して行い、同様に解析を進める。
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Frontiers in Cell and Developmental Biology
巻: 8 ページ: 169
10.3389/fcell.2020.00169