研究課題/領域番号 |
19K06743
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
峰雪 芳宣 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (30219703)
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研究分担者 |
玉置 大介 富山大学, 学術研究部理学系, 特命助教 (20793053)
中井 朋則 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 助教 (60347531)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分裂準備帯 / 微小管 / PPB / cdk / actin / 核・細胞質相互作用 |
研究実績の概要 |
細胞分裂面挿入位置決定機構の解明は発生生物学の重要な課題の一つである。植物細胞では分裂準備帯(preprophase band, PPB)と呼ばれる微小管が帯状に細胞表層に並ぶ構造がG2期に幅の広い微小管帯として出現し、微小管帯が狭くなって表層細胞分裂面挿入予定域(CDZ)と呼ばれる幅数マイクロメートルの細胞膜ドメインが完成し、細胞分裂の最後で細胞板の端はCDZに向かって伸張していく。我々はPPBが狭くなる過程に、核からのシグナルが必要な過程が存在すること、またこの時期の微小管の束化にアクチン繊維が関係していることに気づいた。本研究は、核からのシグナルによって誘導されるPPB形成機構を明らかにすることを目的とし、初年度は微小管帯の幅を狭くする過程を誘導する核からの因子とアクチン繊維が隣り合う微小管を束ねる過程の可視化について解析を開始した。 この時期の核周期進行に重要な働きをしている可能性が高いCDK/cyclinに注目した。ウエスタンブロットでは、すべての真核生物のcdc2(CDK1)が共通に持っているPSTAIR配列を認識するPSTAIR抗体と反応するが、タマネギcdc2 (CDKA1)を特異的に認識するタマネギcdc2抗体とは反応しないバンドがあることが示唆されていたが、そのPPBへの局在の詳細な解析を行い、cdc2でないPSTAIR抗体と反応する分子が幅広い微小管帯に局在することが判明した。この分子の解明のために、ウエスタンブロットで検出できるPSTAIR抗体と反応する2本のバンドが確実に分離、再現できるウエスタンブロットの条件について検討した。一方、タマネギの根で発現しているRNAのデータ解析を開始し、この方法が今後のタマネギC D K /cyclin解析に有効な可能性が出てきた。また、アクチン-微小管相互作用観察のためのライブイメージングの準備も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核からのシグナルによってPPBが狭くなってCDZの領域を決定するという仮説を解明するために、初年度は”PPB微小管の帯幅を狭くする過程を誘導する核からの因子は何か”と“アクチン繊維は本当に隣り合う微小管を束ねられるのか”という2つの問題にとりかかった。後者に関しては、以前我々が開発した、CDZでの個々の分子ダイナミクスの変化が核周期進行のどの時期で行われているか調べることが可能なライブイメージング用顕微鏡(GLIM)をセットアップし、観察したい分子を蛍光ラベルしたタバコ培養細胞でG2から前期の観察を予定通り開始した。 また、PPB形成を進行させる核因子候補としてCDKに注目した。タマネギ根端分裂組織ではcdc2 で保存されているPSTAIR配列を認識する抗体ではウエスタンブロットで2本のバンドが検出でき、そのうち片方がタマネギcdc2に特異的な抗体では認識できないことから, タマネギではPSTAIR配列をもつcdc2(CDKA1)でないCDKの存在が示唆されている。この2つの抗体を使った顕微鏡解析から、PPBの初期にPPBに局在する分子はcdc2でないことが分かった。これはPPB微小管の幅が狭くなる過程にcdc2以外のCDKの関与を強く示唆する。ただ、ウエスタンブロットで検出できるPSTAIRと反応するバンドは、実験条件によってその位置や量が変化したため、それらの条件を検討した。再現性よく2つのバンドを確認する方法のチェックに時間がかかった。一方、遺伝子の方からもアプローチをするため、タマネギの根のトランスクリプトーム解析のデータを入手し、CDKについて解析した。その結果、CDKBが2種類ある可能性が出てきた。ウエスタンブロットの条件で少し時間が取られたが、トランスクリプトーム解析が予想以上に使えそうなことが分かったことを考えると、本計画は概ね順調に進行していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
PSTAIR配列を持つ植物CDKにはCDKA1(cdc2)とCDKA2が知られている。シロイヌナズナなどいくつかの植物はCDKA2遺伝子を持たない。また、タマネギではCDKA1遺伝子は報告があるが、CDKA2遺伝子が存在するかどうか不明である。今回調べたタマネギの根のトランスクリプトーム解析では、CDKA2が存在する証拠は得られなかった。一方、PSTAIR領域のアミノ酸が少し異なっているCDKのグループとしてCDKBが知られている。今回のトランスクリプトーム解析で、タマネギのCDKBは2種類存在する可能性が示唆されている。そこで、来年度はさらにタマネギの異なる2つの組織でトランスクリプトーム解析を行い、結果を比較することで、これらの遺伝子のより詳細な情報を得たいと考えている。 現在我々が立てている仮説は、PSTAIR抗体が認識するもうひとつのCDKは、CDKA2ではなくCDKB1か CDKB2のどちらかで、PSTAIR配列に似ている配列をPSTAIR抗体が認識している可能性を考えている。トランスクリプトーム解析が進めば、この領域のアミノ酸配列も明らかになるので、その領域のペプチドを合成し、PSTAIR抗体が認識できるかどうかを調べたい。それでどちらかが候補に挙がれば、その遺伝子の別の配列でそのCDK特異的な抗体を作製し、ウエスタンブロットと免疫蛍光抗体方で確認する。また、CDKのパートナーであるサイクリンいついてもトランスクリプトームデータから予想して、解析したい。 アクチンと微小管との関係については、GLIMシステムが使用可能になったので、コンフォーカル顕微鏡を使ったライブイメージングとGLIMシステムを使った核の状態を見ながら細胞表層の微小管やアクチンなどの分子の挙動の観察を用いて解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に研究分担者の玉置が兵庫県立大学に来てGLIMシステムを使って実験する予定だったが、来れなくなったため、旅費が残った。
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