真骨魚類の卵膜はzona pellucida (ZP)タンパク質で構成されている。このZPタンパク質の合成場所は元来卵細胞自身であったが、真骨魚類の進化過程で母体の肝臓へと変化した。肝臓由来のZPによる卵膜形成の機構を獲得するためには、発現場所の変化、肝臓から卵巣へのZPタンパク質の輸送、卵細胞外から運ばれてきたZPでの卵膜形成など、多くの変化が伴うことが予想される。しかし、申請者らは、卵細胞で合成する種にも、卵細胞外から運ばれてきたZPでの卵膜形成の機能が潜在的に備わっているのではないかという仮説を立てた。そうだとすれば、真骨魚類の進化過程で起きたこのダイナミックな変化は、実は発現場所が肝臓に変化したことのみに起因するのではないかと考えた。そこで、卵細胞でZPを合成するゼブラフィッシュを用いて、肝臓でZPを発現するトランスジェニック(Tg)体を作製して解析した。また、HEK293A細胞を用いてゼブラフィッシュのリコンビナントZPを作製し、生体に投与することでそれらが卵膜にもちられるかを解析した。 作製したTgゼブラフィッシュは肝臓でZPを発現した。しかし、それらをタンパク質として卵膜で検出することはできなかった。一方、HEK細胞で合成したリコンビナントZPをゼブラフィッシュに投与したところ、それらが卵膜で検出された。このことから、卵細胞で卵膜を合成する種であるゼブラフィッシュにも、卵細胞外で合成されたZPで卵膜を形成する機構が潜在的に備わっていることが示唆された。さらに、この検出されたリコンビナントZPは卵膜の最内層に局在していたことから、ZPは最内層側に重合することも示唆された。
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