研究課題/領域番号 |
19K06746
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
上村 佳孝 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (50366952)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハサミムシ類 / 交尾器進化 / 左右性 / 共進化 |
研究実績の概要 |
オオハサミムシ(Labidura riparia)については、日本~東南アジアのサンプルに基づく解析を進め、論文を出版した。本種のオスは左右一対のペニスを持つが、当該地域に於いては一貫して右利きを示し、その原因がメス側の構造、すなわち螺旋状に旋回した受精嚢の基部構造にあることを突き止めた。すなわち、強制的にオスを左利きにした場合の、繁殖成功の低下を定量した。形態的には左右対称な構造を異なった頻度で用いることの報告自体は昆虫において増加傾向にあるが、その原因まで含めて解明できた例は少ない。 後述のように、海外調査の準備や、(外注実験を含む)分子系統の研究を予定通りのスケジュールに進行させることが難しくなりつつある。そこで、上記テーマに関連して、雌雄交尾器の形が対応して進化する現象に関する、新たなコンピュータシミュレーションモデルの研究にも着手した。これは、多くのハサミムシ類にも共通する特徴である、メスの非常に細く長い精子貯蔵器官について、その適応的意義を説明しようという試みである。現在、その第一報を論文としてまとめ終え、それをベースに、新しいモデルを考案しつつある。 また、これまで情報が皆無であったクロツヤハサミムシ(Parapsalis infernalis)について、飼育系を確立し、交尾行動や交尾器のカップリングの解析に着手した。本種は、交尾の成立に際し、その生息環境である樹皮下を模した特殊なセッティングが必要であることが明らかになりつつある。クロツヤハサミムシと同様、南西諸島に分布するヒメハサミムシ(Nala lividipes)などについても、上記のオオハサミムシと同様の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、年度初めに新しい実体顕微鏡による撮影環境を整備することができ、観察した昆虫サンプルの記録や画像解析が効率的におこなえる環境が整った。主に日本国内のサンプルを用いた飼育実験については、上記の通り概ねに順調に進んでいる。 その一方で、マレーシア(ボルネオ島)でのコウモリヤドリハサミムシ類の調査のため、現地カウンターパートと手続きを開始しようとしたが、Covid-19感染症の世界的な蔓延が進んだたため、頓挫している。 また、ハサミムシ類の分子系統解析に関しては、長い繰り返し配列を含んでいるミトコンドリアDNAよりも、RNAseqによるトランスクリプトーム解析の方が、より効率的に、精度の高い系統樹を得られる可能性が高いことを、海外の研究が示しつつある。この方向を探る準備を進めているが、やはりCovid-19感染症の蔓延により、受託解析の依頼などをペンディングしている状態である。 このような困難はあるものの、上述の通り、企業活動や海外渡航可能性の影響を受けない理論面の研究を代替的に進展させることで、研究活動が停止しないよう工夫している。
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今後の研究の推進方策 |
今後のCovid-19のパンデミックの状況によっては、単純な飼育実験や顕微鏡観察も継続が難しくなる可能性がある。影響が長期化しても、研究が停止しないよう、理論面の研究の裾野を広げていく計画である。 分子系統研究はデータの取得に先立ち、データベースに登録されている既存のデータを用いた予備解析を行うことにより、分子実験が再開できるようになった場合に、論文化が遅れないよう、準備を進めることとしたい。 また、不確実性を見越して、今回の研究テーマは5年間の長期プランで申請している。海外調査などは2021年度以降に順延する可能性が高い。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19のパンデミックにより、主に2020年3月期に予定していた採集調査や分子実験が実施困難となり、次年度へ繰り越しとなった。事態終息後、これらの活動を再開し、挽回する準備を進めているため、2020年度に当初予定していた研究計画自体には、影響がないものと考えている。
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