研究課題/領域番号 |
19K06747
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
三田 雅敏 昭和大学, 医学部, 客員教授 (50190674)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生殖制御機構 / リラキシン様生殖腺刺激ペプチド / Gタンパク質共役受容体 / 免疫組織化学 / ヒトデ |
研究実績の概要 |
無脊椎動物の生殖制御機構を分子レベルで解明することを目的として、本研究では、ヒトデのゴナドトロピン様活性物質、リラキシン様生殖腺刺激ペプチド (relaxin-like gonad-stimulating peptide, RGP)に注目し、(1) RGPとその受容体との相互作用、および (2) 放卵(放精)のメカニズムについて解析をおこなった。 (1) RGPとその受容体との相互作用: RGP受容体を同定するためにイトマキヒトデ卵濾胞細胞からRNA-seq解析をおこない、その中からリラキシン受容体のホモログを検索した。その結果、2種類のRGP受容体候補が見つかり、それらのcDNAを合成し、昆虫由来の培養細胞であるSf9細胞で強制発現させた。これらRGP受容体候補のうちの1つがRGP受容体であることが確認できた。イトマキヒトデから同定されたRGP受容体は947個のアミノ酸から構成される7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体(GPCR)であった。また、モミジガイのRGPについて、B鎖のC末側がアミド化されている可能性が示唆された。 (2) 放卵(放精)のメカニズム: 放卵(放精)を引き起こすRGPは主に放射神経に存在する。これまでin situ hybridizationによって、イトマキヒトデやAsterias rubensにおいてRGPの転写活性は主に放射神経の管足側周辺の上皮細胞で高く、神経内部や体腔側では低いことを示した。今回、RGP抗体を使って、免疫組織化学的にRGPの分布を調べたところ、RGPは放射神経内部の神経線維辺りに分布していて、周辺部分には少ないことが示された。このことから、RGPは放射神経周辺の上皮細胞で合成された後、神経線維の多い中心部に蓄積され、繁殖期になるとRGPは体腔側の血洞系に分泌される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) RGPとその受容体との相互作用: イトマキヒトデ(アカヒトデ目)のRGP受容体は同定できたが、予定していたAsterias rubens(マヒトデ目)のRGP受容体はまだ未同定である。理由は、COVID-19の感染拡大の影響を受け、緊急事態宣言が出されたため、繁殖期(4月)にA. rubensの生息する英国に出国することができなかった。そのため、実験に必要なサンプル調製や放卵アッセイなどをおこなうことができなかった。また、モミジガイRGPについて、RNA-seqからRGP前駆体候補を検索することはできたが、まだ化学構造は完全に解明できていない。理由は、2019年8月末に千葉県を中心に大雨の被害があり、そのため周辺に生息するモミジガイの数が著しく減少し、サンプルが十分に得られなかったためである。 (2) 放卵(放精)のメカニズム: RGP抗体を使ってイトマキヒトデの放射神経におけるRGPの分布を免疫組織化学的に明らかにすることができた。しかし、緊急事態宣言が出されたことで、現地での実験を予定していたQueen Mary University of London(英国)を始め、お茶の水女子大湾岸生物教育研究センター(千葉県館山市)や東北大学大学院生命科学研究科附属浅虫海洋生物学教育研究センター(青森県青森市)に出張することができなかった。そのため、予定していた成果は得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) RGPとその受容体との相互作用: 既に、イトマキヒトデのRGP受容体は同定した。一方、RGPには部分的な種特異性がみられることから、これを解明するために他種のヒトデ (具体的に、Asterias rubens、オニヒトデ、アカヒトデ、エゾヒトデ、ヤツデヒトデおよびモミジガイ)についてRGP受容体を同定し、RGPとの相互作用を解析する。方法として、A. rubensとオニヒトデ以外は遺伝子情報がないことから、始めにアカヒトデ、エゾヒトデ、ヤツデヒトデ、モミジガイについてRNA-seq解析をおこないcDNA情報を公開する。そして、これら6種類について、イトマキヒトデRGP受容体とホモロジーの高い遺伝子を検索し、培養系細胞を使って発現させ、各種のRGP受容体を同定する。そして、各RGP分子と受容体との相互作用を解析する。また、モミジガイRGPのアミド化の有無については、放射神経抽出液をLC-MS/MS分析し、分子構造を解明する。 (2) 放卵(放精)のメカニズム: RGPの放出は単離した放射神経をイオノマイシン処理することで人為的に誘起することができる。既にイトマキヒトデRGP (PpeRGP)とA. rubens RGP (AruRGP)に対する特異的抗体は作製した。そこで、イトマキヒトデあるいはA. rubensから放射神経を単離し、イオノマイシン処理前後の放射神経に対して、それぞれのRGP抗体を使ってRGPの分布を免疫組織化学的に解析する。一方、PpeRGPのELISAによる定量方法は作製したが、AruRGPの定量方法はまだである。そこで、AruRGP抗体を利用したELISAによる定量方法を新たに開発する。これによって、イオノマイシン処理前後の放射神経に含まれるRGP量を定量する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していたMaurice R. Elphich教授(Queen Mary University of London, England)との共同研究およびインドネシアで予定されていたアジアオセアニア比較内分泌学会がCOVID-19の感染拡大の影響で実施できなかったり中止になったことにより、当初予定していた支出額よりも少なくなった。2021年度の国内外の旅費および物品費として使用する予定である。
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