研究課題/領域番号 |
19K06753
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
水野 克俊 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (00777774)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 左右軸 / 繊毛 / カルシウム |
研究実績の概要 |
マウスの8日胚に見られるノードには、回転性の運動を行い流れを作り出す動繊毛とノード周縁部に局在する不動繊毛とが見られる。周縁部の不動繊毛は、動繊毛により作り出された流れを感知することで左右の決定において必須の役割を果たす。このとき、不動繊毛からカルシウムが流入すると推測されていたが、マウスノードの胚性繊毛において、はっきりとしたカルシウム流入を可視化した研究はなく、繊毛内カルシウムが果たす機能も明確にはされてこなかった。本研究では、体の左右決定に関わるノードの不動繊毛においてカルシウム動態を可視化し、左右非対称な繊毛カルシウムシグナルが存在することを明確にすることを目指す。さらにカルシウムシンクタンパク質によるカルシウムシグナル阻害がマウス胚の左右にどのような影響を及ぼすのかを検討する。 これまでの研究により、マウスノード繊毛、および細胞質で激しいカルシウム濃度の振動が存在することを示した。さらに、繊毛および細胞質におけるカルシウムの振動数は左側で特に高くなっており、左右決定との関わりが強く示唆された。さらなる研究として、様々な薬剤によりカルシウム阻害を試みることにより、ノード周辺における左右決定において小胞体からのIP3経路を介したカルシウム放出が重要であることが示唆された。また、さらに繊毛におけるカルシウムシグナルを直接的に阻害することを、繊毛特異的カルシウム吸収タンパク質をトランスジェニック技術によりノード周縁部の繊毛特異的に発現させることにより試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、我々はマウスのノード繊毛特異的にカルシウムセンサータンパク質GCaMP6を発現、細胞質においてRGECO1を発現させ、解析を行った。その結果、細胞質、繊毛ともに、活発なカルシウム濃度の振動を示し、左側で有意に高い振動数を示すことが明らかとなった。同時に、細胞質でのカルシウム上昇が、繊毛へと流入することが確認された。繊毛特異的なカルシウム上昇を観察することを目的として、細胞質におけるカルシウム濃度変動を除去した条件での観察を行った。その結果、ノードの左側繊毛特異的なカルシウム変動の存在が示され、繊毛由来のカルシウム流入の存在が支持された。これらのカルシウムシグナルを示す細胞は、ノードのクラウン細胞の中でも左側に位置する、左右対称性の破れに関与する最初期のシグナルであるNodalアンタゴニストCerl2のmRNA分解を最初に示し、左右非対称なSmadリン酸化を示す細胞と一致していた。さらに、繊毛特異的にカルシウムシグナルを阻害することを目的として、繊毛ターゲティング配列を連結したカルシウムシンクタンパク質を繊毛に強制的に局在させた。このトランスジーンを発現するマウスでは、Cerl2のmRNA分解が、繊毛特異的カルシウム阻害により影響されることが示唆された。これらの知見から、胚における対称性の破れに対して、カルシウムが重要な役割を有することが強く示された。繊毛および細胞質両方の部位におけるカルシウムシグナルが左右決定において重要な役割を果たすと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
以上の成果をまとめた論文を現在準備中である。また、繊毛が流れから受容する刺激が化学刺激であるか、物理刺激であるか、という問題への解決は未だ得られていない。それらを解決するための実験を共同研究者とともに準備中である。また、これまでの研究では実際にカルシウム流入に関わるチャネルの実体も不明である。以前から信じられているようにPkd2チャネルなどのTRPを由来とするカルシウム流入があるのか、別の経路が存在するかを薬剤実験とカルシウムシグナルの観察を通して明らかにしていく。また、繊毛におけるカルシウムシグナルと細胞質内でのCerl2 mRNA分解の機構の関連も明らかにしていく。Cerl2 mRNA分解が特に見られるのは繊毛の根本、ノードクラウン細胞のアピカル面である。繊毛から何らかの形でシグナルが細胞質に伝わり、細胞質アピカル面において誘起されたカルシウムシグナルによってmRNA分解の機構が開始されると考えられるが、その詳細な機構は不明である。IP3経路を介する細胞質内カルシウム変動と、mRNA分解の機構解明の研究をその仕組みとの関連を変異体におけるカルシウムイメージングなどを利用して解明していく。
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