代謝センサーであるKATPチャネルは膵β細胞や脳でグルコースを感知し、全身グルコース恒常性に寄与している。さらに、KATPチャネルの欠損マウス(KO マウス)では脂肪組織での糖取り込みの亢進や高脂肪食負荷時に肥満抵抗性を示した。しかしながらKATPチャネルは脂肪細胞には発現しないことから、我々は脂肪組織以外のKATPチャネルが脂肪組織の代謝を制御している可能性を考えた。 KOマウスで寒冷刺激時の脂肪組織での遺伝子発現を解析したところ、褐色脂肪組織でのPGC1aの発現誘導が完全に消失していた。寒冷刺激時の褐色脂肪や白色脂肪での代謝変化には交感神経系制御が重要であることから、寒冷暴露によるPGC1aの発現増加に中枢でのKATPチャネルが関与している可能性を考えた。そこで、脳特異的KOマウスを作製し、寒冷刺激による表現型や誘導される遺伝子プロファイルの変化を解析した。すると、全身KOマウスと同様に、脳特異的KOマウスでは寒冷暴露によるPGC1aの発現誘導が減弱しており、生体は寒冷刺激を感知され脳のKATPチャネルを介して、交感神経系入力を介して寒冷応答していることが明らかになった。 一方、褐色脂肪組織での熱産生分子であるUCP-1の遺伝子発現や白色脂肪組織の褐色化は全身KOマウスでも保たれており、これらの寒冷応答は複数の細胞内シグナルにより相補的に保持されていることが明らかになった。 さらに野生型マウスでは、寒冷刺激時に脂肪酸不飽和化酵素であるScd1と、脂肪酸伸長酵素であるElovl6の遺伝子発現が白色脂肪組織において上昇するが、全身KOマウスではこれらの遺伝子発現誘導が障害されていた。一方、これらの遺伝子発現誘導は脳特異的KOマウスで正常に保たれており、脳以外のKATPチャネルにより制御されている可能性が示唆された。
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