研究課題/領域番号 |
19K06758
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 大輔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60376530)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 光受容 / ゼブラフィッシュ / 体色変化 / 網膜 / オプシン / 色覚 / 錐体 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
動物の環境応答行動の光制御メカニズムと、その個体成長過程における転換様式を明らかにするため、真骨魚類ゼブラフィッシュを動物モデルとして次のように研究を進めた。 ◎動物の光環境応答の一つ「背地適応」の光制御には、少なくとも2種類の光受容分子が関与し、その一部は視細胞以外の網膜ニューロンに存在する。これらの光受容細胞の特異的な破壊実験により背地適応制御の神経回路を調べるため、前年度に引き続いてGAL4-UASシステムの導入を進めた。本年度は、背地適応に関わるオプシン遺伝子の上流近傍に、CRISPR/Cas9を用いてGAL4遺伝子をノックインするための実験系を構築した。得られた個体群においてGAL4遺伝子の発現が眼球内で誘導され、かつ、このオプシン遺伝子の発現パターンに類似することがわかった。現在、組換え系統の樹立を進めている。 ◎動物の光環境応答の進化学的・発生学的な研究展開として、網膜の錐体視細胞の分化制御メカニズムの研究をおこなった。脊椎動物の祖先種は紫・青・緑・赤という4種類の錐体オプシン遺伝子を持ち、4色型の色覚が原型である。このうち青錐体オプシン遺伝子の転写制御メカニズムはこれまで謎に包まれていた。4色型色覚をもつゼブラフィッシュを用いて錐体オプシン遺伝子制御の研究を行った結果、脊椎動物種に広く保存されているにもかかわらず機能未知であった転写因子Foxq2が、青錐体オプシン遺伝子の転写スイッチに必須の鍵分子であることを見出した。また、比較ゲノム解析より、foxq2遺伝子は哺乳類の進化初期に失われたことが判明した。これは青錐体オプシン遺伝子が哺乳類進化の過程で失われたことと一致し、脊椎動物の視覚進化を考えるうえで重要な発見である [Ogawa et al. 2021 Science Adv.]。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は以下の4つの研究項目からなる:(1) 背地適応を制御する光受容分子の同定、(2) 背地適応を制御するオプシン発現細胞の同定と光応答性の検証、(3) 背地適応を制御する光受容システムの神経回路、(4) 幼生型体色変化を光制御する光受容分子の同定。CoViD-19流行拡大のため2020年度に動物飼育・繁殖の作業が制限されたことなどにより、全体的としては計画の進行が後ろ倒しになっているが、本年度はこのうち(2) と (3) を中心に着実に計画をすすめた。さらに、本研究課題全般に関連した進化学的・発生学的観点からの研究として、色覚をになう錐体視細胞のひとつ、青錐体の分化・遺伝子発現に必須の転写因子を同定し、この成果を国際学術誌(Ogawa et al. 2021 Science Adv.)に報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度までに完了していない部分について引き続き研究をすすめる。本年度新たに導入した手法(CRISPR/Cas9とGAL4-UASを組み合わせたもの)により、目的の系統を樹立し、背地適応を制御する神経回路の解明を試みる。また、幼生型体色変化を光制御する光受容分子については、これまで候補分子の変異系統群のほぼ全ての解析が完了しているが、いずれの単一変異でも表現型を示さないことがわかったため、多重変異体の作成を進めている。次年度はこれら多重変異体を用いた解析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
CoViD-19流行拡大のため、2020年度以降、動物飼育・繁殖の作業が制限されたことなどにより全体的に計画の進行が後ろ倒しになった。このため研究期間を1年延長し、残りの計画を次年度に進めるため、相当額を次年度使用する。また、参加を予定していた国際学会が再延期になったため、この分を次年度に使用予定である。
|